PLAINセンターニュース第140号Page 2

「すばる」出張報告

田村 隆幸
PLAINセンター


 2005年5月4日から10日まで銀河団の観測のためハワイのすばる望遠鏡に出張しました。実際に観測をおこなったのは、5日, 6日の二晩でした。共に日の入り前(〜20:10)から日の出(〜4:20)あたりまで観測しました。なお、5月7日が新月で、可視光の観測には最適の時期でした。成田を午後10時頃に出て、ホノルル経由で、観測所には、(ハワイ時間で同日の)昼すぎに着きました。ハワイでの移動は、(無意味に大きな)レンタカーを利用しました。

 国立天文台のすばる望遠鏡は、ハワイ島のマウナケアの頂上、4200 mにあります。多くの場合、観測者も山頂に出向くようです。ただし、今回はハワイ大学ヒロ校(ハワイ島)の一角にある山麓施設から「リモート観測」しました。

 観測の前に、山頂の望遠鏡を1時間ほど見学させてもらいました (写真1)。山頂では、空気中の酸素濃度は、4割減になります。私の血液の酸素濃度が地上での平常時に比べ、2割減になり、脈拍がおおよそ2割増しになりました。観測所の方によると、若くて脳が活発で、心配性の人ほど高山病の症状が出やすいとのことでした。私も(幸か不幸か)酸欠の気分がして、頭がぼっとしました。昼間でしたが、多くの方が山頂で作業していました。ご苦労さまです。


写真1 すばる望遠鏡と筆者。

 観測は、赤方偏移〜1 (宇宙年齢のおおよそ半分、昔に遡ることに相当します)付近の3つの銀河団を可視光の複数バンドで測光するためです。すばる主焦点広視野カメラ(Suprime-Cam)を用いました。天文台の児玉さんがこの観測(PISCES プロジェクト; Panoramic Imaging and Spectroscopy of Cluster Evolution with Subaru)の主提案者です。私を含め3人でハワイ島に向かいました(プロジェクトのこれまでの結果は、Kodama et al. PASJ, 2005, vol.57, p309 を参考にしてください)。

 望遠鏡システムの焦点調整、フラットフィールドの較正、標準星の観測、フィルターの交換が、目標天体の観測の間に入ります。これらの操作を、(共に山麓から)観測者、サポート科学者、(山頂の)サポートオペレータの3者で行います。山麓と山頂は、共用の計算機の画面・システムとTV会議システムを用いてコミュニーケーションします。今回は、3者にくわえ主提案者も、ドイツよりTV会議を用いて観測に参加しました。主に次のような状況を計算機上の画面を見ながら、観測をすすめます。自動追尾用のガイド星のイメージ、焦点カメラの画像、山頂の雲モニター、システムの操作コマンド入力・出力、望遠鏡の指向方向、望遠鏡ドームの内外の温度、湿度、風速。

 観測者はシーイングやバックグランドなどの状況に合わせ、露出時間などを最適化します。私は、X線以外での天文観測はほとんどしたことがありませんでした。そういう訳で、重要な判断はプロの方にお任せしました。なお、データ量は、主焦点広視野カメラの場合、数10GB/夜だそうです。また計算機システムの基本OSはSolarisです。

 我々の観測は、シーイングが0.4から0.6秒角程度でとても良く、ほぼ予定通りの観測が完了できました。

 気がついた科学衛星(私は「あすか」しか経験ありませんが)の運用との違いをあげます。

  • 天気に左右される。
  • 自由度が大きい。その場での判断が多い。
  • 比較的にのんびりしている。衛星運用の場合、判断ミスが衛星そのもののロスにつながる。
    観測者が考えるべき操作 コマンドの種類が少ない。
  • テレメトリに制限される衛星に比べて、データ量が大きい。
  • 観測中は、ほとんど休み無し。衛星の場合はコンタクト時間に集中して仕事をする。例えば「あすか」の場合、1日に約20分×(1-5)回でした。
  • オペレータが日本人でなかったので、英語での迅速な伝達が必要。
  • 当然ですが、夜空の観測なので夜にしかできない。したがって生活パターンが完全に逆転する。
  • 観測者が、観測所にやってきて観測をおこなう。ハワイまで行かなければならない(あるいは行くことができる)。

 今回の観測をふくむ、この銀河団プロジェクトから大きな成果が引き出せると期待しています。

 
写真2 観測モニターの様子。背中は東大・田中氏。



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