PLAINセンターニュース第140号Page 1

Astro−E2向け EDISON について

本田 秀之
PLAINセンター


1. 始めに

 EDISONは Engineering Database for ISAS Spacecraft Operation Needs の略称で、衛星運用工学データベースとも呼びます。これは、人工衛星や探査機の運用に必要とされる主に工学的情報(テレメトリデータ、局設備からのデータなど)を一元的に収集管理し、また利用しやすい形で関係者に配布することを目的として構築されてきました。現在は、NOZOMI 及び HAYABUSA EDISON が稼働しています。地球周回衛星である Astro-E2では、従来の惑星探査機用に比べて格段にデータ量が増加することと、サイエンスサイドからの要求もあり、HAYABUSA までのものに比べて多くの機能拡充が行われました。

2. 開発の方針

 以下の方針の下に、Astro-E2 EDISON の開発を行いました。

  • テレメトリデータは SIRIUS より、他のデータはデータ蓄積より入手する。
  • テレメトリデータは、全項目工学値化する。但し、長期保管に関しては、使用頻度が高く重要と思われる項目のみとする。
  • PLAIN センターで開発運用してきた EDISON と、DANS および DARTS 間の連携を強化する。
  • ユーザの利便性を増すため、データ検索機能を強化する。
  • 個別の処理要求は、ユーザプラグイン機能で対応する。
  • SIB (Spacecraft Information Base) 情報の履歴管理を行う。
  • 高信頼の自動化を目指し、システム動作監視機能を付加する。
  • 従来通りのファイル管理方式でデータの管理を行う。
  • 今後の衛星対応が容易になるように、ソフトウエアのモジュール化を図る。
  • 保守性を考慮し維持コストを低減する。
  • 拡張性を考慮する。

3. 配布予定データとデータ量の見積り

 Astro-E2 EDISON で提供する予定のデータとその保存単位、一日あたりのデータ発生量の見積りは表1の通りです。保存期間の項目において「長期」とは衛星の運用期間以上を、「短期」は月程度のオーダーを指します。なお、一部のデータの保存期間に関しては検討中です。

表1 配布予定データとデータ量の見積り

データ名
概要
保存単位
保存期間
予想発生データ量/日
長期工学値
テレメトリデータの一部
1日
長期
500MB
全項目工学値
全テレメトリ工学値
1日
短期
1200MB
全項目工学値(XML)
全テレメトリ工学値
1日
短期
7600MB
プラグイン処理結果
ユーザプログラム処理結果
--
長期
--
追跡データ
追跡データの工学値
1パス
長期
12MB
設備監視データ
設備監視データの工学値
1パス
長期
4MB
軌道要素データ
軌道要素
1エポック
長期
--
アンテナ予報値
アンテナ予報値
1パス
長期
--
長期可視データ
長期可視
1ヶ月
長期
--
コマンド履歴
コマンド履歴
1パス
長期
--


4. システム構成とデータの流れ

 システム構成とデータの流れを図1に示します。


             図1 システム構成とデータの流れ     ↑click for detail (PDF)

テレメトリデータは SIRIUS 経由で、データの重複削除や時刻付け等の処理済みのものを入手します。テレメトリ共通処理基盤は SIB 情報を使ってテレメトリデータを工学値に変換する部分で、今後の衛星にも共通に利用可能な部分として構成しています。なお、各衛星に固有部分は、今後も個別に対応する必要があります。次に項目の抽出を行うわけですが、 Astro-E2 のサイエンス側から全項目の XML 化の要請があり、全項目を DANS に引き渡す経路 (FITS 形式への変換)と、従来方式で短期間全項目を提供する経路が新規に作られました。また従来と同様、よく使われる一部の項目を抽出して長期保存をする経路があります。

 一方テレメトリ以外のデータはデータ蓄積から取り込まれます。SIB は履歴管理され、保存されています。SIB の内容が変更され、過去のテレメトリデータの再変換の必要が生じた場合には、これを参照しその時点での SIB 情報を用いた工学値変換を行う必要があるためです。設備監視データ等はこちらの経路から収集され、データベースに登録されます。

 ユーザはウエブブラウザを利用して EDISON にアクセスします。データは既定の検索条件あるいはユーザが指定した検索条件でサンプリングされ、提供されます。また、ユーザはプラグイン機能を使って独自のデータ選択収集機能やフィルタリング機能を組み込むことができるため、利便性が大きく向上すると考えています。なお、ユーザーの誤操作等によるシステムへ悪影響がでないように、十分な保護機能も組み込んでいます。

 これらの情報の管理システムはデータベースソフトを利用せずに構築しましたが、これは EDISON では主に時系列データしか取り扱わないこと、要求される検索も比較的単純であることから、データベースソフトの長期にわたる保守性との利害得失を検討した結果です。

 なお本システムは自動運転が基本です。異常があった場合に速やかに管理者が検知できるようにするため、動作監視機能を付加しています。これは定期的に動作状況の情報を収集し、管理者にメールで送ることにより実現しています。

5. おわりに

 テレメトリデータの工学値変換と登録部分はほぼ開発が終了し、変換されたデータの詳細について確認中です。設備監視データの内、新規に組み込む必要のある内之浦34m局の監視データで登録すべきものの選択と詳細確認作業は近日中に終了するので、衛星打ち上げまでにはシステム全体がほぼ稼働する予定です。本システムが衛星の運用や学術研究に役立つことができれば、開発グループとして幸いです。



この号の目次

「すばる」出張報告


( 2.8Mb/4pages)

Next Issue
Previous Issue
Backnumber
Author Index

PLAINnews HOME