PLAINセンターニュース第135号Page 2

パサディナ滞在記 (2)

長木 明成
PLAINセンター


 多くの不安を抱えながらも、このパサディナという町を拠点にアメリカでの生活が始まりました。ロサンゼルス周辺は自動車の普及とともに発達してきた経緯から、アメリカを象徴する自動車社会が展開していますが、大変悩んだ結果「自動車のない生活」をスタートさせることにしました。このことは誰に話しても必ずというほど驚かれるのですが、普段は自転車で活動し必要な時だけレンタカーを借りるという生活も、慣れてしまえば不思議と快適なものです。市街地の近くにアパートを借りたため、職場やスーパーマーケットが徒歩圏内にあったことも大きかったのかもしれません。2003年7月からダウンタウンまで鉄道が開通したことも後押しとなりました。「Gold Line」と呼ばれているこの鉄道は非常にきれいで、環境意識の高まりを受けて乗降客数を伸ばしているようです。朝の通勤時間帯には、フリーウェイの渋滞がひどいこともあり、もちろん日本ほどではないですがダウンタウン方面に出勤するための立ち乗り客が出るほどです。また、自転車での移動もカリフォルニアの爽やかな気候のもとではとても快適で、パサディナ市内のあらゆるところへ自転車で出かけましたが、街路樹から落ちる木の実がパンクを誘発するようで、これにはとても悩まされました。職場で大変お世話になったフリードマン博士に「自動車は買わない。自転車を使う。」と言ったところ、「信じられない。カリフォルニアの人は200m先に行くにも車を使う」と冗談を言われたことが記憶に残っています。
 そうは言ったものの、自動車がないのはやはり不便で、日本食材が手に入るスーパーマーケットは少々遠くにありましたし、まとめて買い出したものの自転車にうまくのせるのに苦労したこともありました。新生活のスタートにあたって買った家具を手で抱えて歩いて帰ったり、せっかく買ったハンバーガーが家に着くまでに冷たくなったりした時のわびしさは言い表せないものがあります。時と場所を問わず必ずしも安全というわけではないアメリカでは「自動車」はやはり欠かせないというのが実感です。
 こうして新天地に馴染もうとしているうちにいつの間にか、ハロウィン・感謝祭・クリスマスとホリデーシーズンが過ぎ去り、新年を迎えてすぐの2004年1月3日、惑星協会主催の一大イベント「Planetfest '04」が始まりました。このイベントは、JPLの惑星探査ミッションの大きな節目に合わせて開催されており、今回は火星探査ローバー「スピリッツ」の着陸に合わせて、3日・4日の2日間の日程でした。初日はスピリッツの着陸時間が米国太平洋時間の夜8時過ぎに予定されていたので夕刻からの開場だったのですが、ランディングの状況を生中継で体感でき、また著名な作家や俳優の講演や朗読劇も行われるとあって、多くの参加者を集めていました。やはり注目は「NASA TVによる生中継」で、開場の大画面にJPLで実際に行われている火星着陸に向けてのオペレーションがリアルタイムで映し出されることによる現場との一体感、我々一人一人がミッションに参加している一員と思わせる演出にはまさに「鳥肌が立つ」感じでした。この日は着陸の成功に始まって、ローバーから送られてくる最初の映像を待ち、さらにその後来場したJPLのスタッフとの意見交換が終わる頃にはすでに深夜になっており、それでも更なる情報のアップデートを待つ人たちで会場は賑わっていました。
 二日目は前日のこともあり午後3時からの開場で、この日はローバー着陸についてのその後の報告がJPL所長やプロジェクトマネージャーをはじめとするスタッフの皆さんからなされました。こういった会に参加していつも感じていたことですが、一般の方々からの質問がこれでもかというくらいスタッフに浴びせられます。またこのとき着陸イベントに合わせて米国内とブラジルから招待された二人の「Student Astronauts」が登壇して、JPLでのオペレーション現場の様子と感想を生き生きと話していたのですが、その姿を見て不思議と元気がわいてくる自分に気づいたりしました。


スクリーンに映し出されたローバーの着陸信号を待つJPLコントロールルーム

 またもや紙面が残り少なくなってしまいました。ここでお話ししたことは私の米国滞在のほんの一部分だけですので、きちんと様子をお伝えできたかは甚だ疑問ではありますが、これまでこなしてきた私の仕事と一見異なるこの特別な経験を今後の自分の職務に生かし、皆さんに私の得たものを示していくことを肝に銘じつつ、この場は筆を置きたいと思います。



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