PLAINセンターニュース第115号
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X線天文衛星 XMM-Newton

田村 隆幸
PLAINセンター

1. はじめに
2. 観測装置
3. 観測データの流れ

1.はじめに

 ヨーロッパのX線天文衛星 XMM-Newton(図1;以下では Newton と呼びます)を紹介します。今回はプロジェクトと観測データの流れを、次回はデータアーカイブを紹介します。表1に、Newton のライバル衛星との比較をまとめました。

図1 Newtonの透視図


( 図をクリックすると拡大図が見られます)

左側より3台のX線望遠鏡、そのうち2台の後ろにはRGSの分散器、右側に検出器のプラットホームが見える。緑、紫、赤色の部分は各検出器のラジエター。 XMM User Hand Bookより転載(copyright ESA)

表1Newtonとライバル衛星、Chandra, Astro-E2の性能比較

*1 (cm2), @ 1keV

*2 (eV), @ 1keV

*3 (eV), @ 7keV

 さて、図2はこの衛星で測定した銀河団プラズマの X線スペクトルです。O、Ne、Mg の K輝線や Fe の L輝線が見えます。このような X線スペクトルによってプラズマの温度(この場合は約3×107 K)や元素の組成比を調べることができます。このような高温のプラズマは、銀河団以外にも、星のコロナ、連星の周りの降着円盤、超新星の残骸などとして広く存在します。これらの天体をX線分光によって理解しようというのが、Newton の目標です。

図2 Newton-RGSで測定された銀河団プラズマ(Abell 496)のX線スペクトル

0.3 keVから1.6 keVのエネルギー領域に対応している。O、Ne、およびMgのK輝線に加え、Feの L輝線(右上の拡大部)が検出されている。Tamura et al. 2001, A&A, 379, 107より転載。

 この衛星は、1999年の12月にヨーロッパ宇宙機関 (ESA) によってフランス領ギアナから打ち上げられ、今も観測を続けています。衛星の重量は4t、全長は10mと、ESA が打ち上げた最大の科学衛星だそうです。プロジェクトの費用は、約700Mユーロだそうです。 ESA の X線天文衛星としては、EXOSAT (1983-1986) 以来です。その間には、ドイツの ROSAT (1990-1999)とイタリア-オランダの Beppo-SAX (1996-2002) がありました。

 Newton の web-site によると、このプロジェクトには、ヨーロッパ14ヶ国とアメリカ、および46の企業が参加したそうです。実は私も、2000年の2月よりオランダの SRON でこのプロジェクト (特に RGS) に機器較正・データ解析者として参加しました。ヨーロッパの人々は、各国ごとに個性がありますが、それぞれ得意な分野で貢献し、ヨーロッパとしてまとまってやっていこうという雰囲気、そして国際協力の長い歴史が良く感じられました。特にオランダでは、国際協力なしでは大国に無視されてしまうという気概を感じました。


2. 観測装置

 なんといっても Newton の特徴は、3台の巨大なX線望遠鏡です(表1)。そもそも、XMM とはX-ray Multi-mirror Mission の略です。望遠鏡は、Wolter-I 型と呼ばれるもので、図3に示したように光の望遠鏡とは全く異なるデザインをしています。これらの望遠鏡によって、明るいものから暗いものまで、各種のX線源の精密な X線分光が可能になりました。この望遠鏡は、主に ESA と Media Lario (イタリア)によって製作されました。

図3 NewtonでのX線の行路

ただし、もう1台の望遠鏡と PN は含まれていない。左より望遠鏡、分散器、検出器 (右上は RGS 用、右下は MOS-CCD)。左上は、分散器のデザイン。 XMM User Hand Bookより転載 (copyright ESA)

 この望遠鏡の焦点面には、CCD (EPIC; European Imaging Camera) が3台のっています。1台は、PN とよばれる背面照射の CCDで、比較的に高い検出効率と速い読みだし速度を持ちます。残りの2台は、MOS と呼ばれる前面照射の CCDです。

 MOS と望遠鏡の光路の間には、透過型の分散器 (Grating Stack;図3と図4) が置かれており、そこで反射した X線は別の CCD によってその分散角(波長に対応)が測られます。まさにニュートンがプリズムを使っておこなった分光を X線でおこなうものです。分散関係は、 m×λ = d [cos(b)- cos(a)] で、 m、λ、d、b、a は、次数 (-1,-2...)、波長、グローブ幅(約1.5マイクロメーター)、分散角、入射角です。このシステムは、RGS (Reflection Grating Spectrometer)と呼ばれ、これまでにない高波長分解能の X線分光を可能にしました。例えば、点源に対する波長分解能は、約 70/m ミリÅで、1keV 以下の低いエネルギーでは、Astro-E2のカロリメーターを凌駕します。ただし、エネルギー帯域は、2.5 keV 以下に限られています。RGS は、主に SRON (オランダ)、コロンビア大学(アメリカ)、MSSL (イギリス)、PSI (スイス) によって製作されました。

図4 RGS の分散器


(図をクリックすると拡大図が見られます)

コロンビア大学の製作(copyright SRON)

 以上の X線観測装置に加え、可視光・紫外線のモニターシステム (Optical Monitor; OM)を備えています。口径 30cmの望遠鏡、MPC-CCD 検出器、各種フィルター、およびグリズム分散器を搭載しています。 OM は絶えず、X 線望遠鏡と同じ視野を観測し、まさにモニターの役目を果たします。ある種の X線天体は、可視光・紫外線でも時間変動を示します。したがって、可視光・紫外線と X線を同時に観測することでその放射機構を解明することができます。OM は、主に MSSL によって製作されました。

3. 観測データの流れ

a) Newton -> グランド局 -> MOC

 衛星からの観測データは、リアルタイムでグランド局(パース、フランス領ギアナ・クールー、およびサンチャゴ)で受信されます。このデータはそのまま、地上電波通信によって MOC (Mission Operation Center; ドイツ、ダルムサット) に送られます。ここで衛星機器の状態をリアルタイムで監視し、コマンド送信を行ないます。さらに、衛星の軌道情報を観測データに追加します。

b) MOC -> SOC

 観測データは、SOC (Science Operation Center; スペイン、ビジャフランカ) に送られ、そこで QL 解析がおこなわれます。さらに、観測データを ODF (Observation Data Files) とよばれる標準形式 (FITS) に変換します。SOC は、軌道較正情報を含むCCF (Current Calibration files) を作る責任も持っています。

c) SOC -> SSC

 ODF は、さらに SSC (Survey Science Centre; 英国レスター大学) に送られ、ここで Newton の標準解析システムである SAS (Science Analysis System) によって、パイプライン処理され、イベントファイル、イメージ、スペクトルが作られます。詳しい解析システムについては、別に紹介します。

d) SSC -> SOC -> 観測者

 これらのパイプライン・プロダクトは、もう一度 SOC に送られます。SOC はこれを ODF や CCF と合わせて、観測者にオンラインのアーカイブ (XSA; XMM Science Archive) および CD-ROM を使って配ります。

 このように Newton のデータは、ヨーロッパを駆けめぐり各種プロセスを経て、観測者の手に渡ります。打ち上げ直後は、データが届くのに時間がかかったようですが、現在では、2-3週間で届くようです。

 Newton も他の X 線天文衛星と同じく公開天文台であり、一定の期間 (試験観測や緊急観測) を除いては、利用者の公募提案の観測によって使われます。公募は世界中の研究者から受け入れられ、数倍の競争を勝ち抜かないと自分の観測ができません。だたし、データが観測者に渡ってから一定の保証期間(Newton の場合は1年)がすぎると、データアーカイブから一般公開されます。


 次回は、データアーカイブの紹介をおこないます。

 以下は、Newton に関する情報源です。

・Astronomy & Astrophysics, vol 365, No1, 2001, "First Results from XMM-Newton"
http://xmm.vilspa.esa.es/



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