No.303
2006.6

特集:「はやぶさ」の科学成果 第一報


ISASニュース 2006.6 No.303 

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イトカワはラブルパイル小惑星

 「はやぶさ」のイトカワ到着前の2002年と2004年に国内および国際研究会を持ち、その時点でのあらゆる知識を集めて、イトカワがどんな天体なのか予測を行った。探査機のデータがもうすぐ出てくるという時点での議論は非常に緊張感があり、知的好奇心をかき立てるものであった。考慮すべき重要な要素は、衝突破壊の影響と低重力(脱出速度数十cm/s)である。こんな小さな小惑星は、衝突や破壊を経た破片に近いであろう。表面には、破壊で生じた破片の中で相対速度の小さい、大きな破片しか引き付けられないだろう……。結局そのときの予測では、この天体は隕石の巨大な塊で、内部はかなりひび割れており、表面にはレゴリス(砂れき様の堆積物)が少なく、あっても少しで、巨岩はあるだろう、というものだった。

 このような予想を持っていた我々が、「はやぶさ」で見たイトカワはかなり異なっていた。岩がごろごろというイメージはある程度当たっていたかもしれないが、その多さと超巨大岩の存在は予測できていなかった。また、サンプル採集地となった「ミューゼスの海」のような平坦な地域があることが不思議であった。近接写真によって、この地域はcm〜mmの(やはり砂というには大きめの)比較的粒径のそろった粒子から構成されていることが明らかになった。表面のポテンシャル分布図と比較してみると、ポテンシャルの低いところに滑らかな地域の分布が一致していることから、これらの粒子は(例えば衝突によってイトカワが揺さぶられて)移動してきたものと考えられている。

 最も驚くべきことは、イトカワの密度が1.9g/cm3という低い値を持つことである。このことなどから、この小惑星はラブルパイル(がれきの積み重なり)構造を持つ空隙の多い天体と考えられている。このような構造は、衝突破壊後に破片が集積し合って取る構造として理論的に予測されていたものである。しかし、これまで撮像された小惑星はどれもその証拠を示すものではなく、なぜラブルパイルが見つからないのか、謎とされていた。それが、今回初めて見つかったのである。しかも、こんな小さな小惑星はラブルパイルではあり得ないとみんな思っていたのに。イトカワのラッコを思わせる形状(「イトカワの形と地形について」参照)も、頭と胴がラブルパイルとしてできて、それぞれが互いに集積したと考えられている。

 惑星は、小天体が衝突破壊、集積を繰り返しながら出来上がってきたと考えられている。その過程は、これまでさまざまな研究手段によって推測されてきた。ここに至って、イトカワはこれらの過程の複雑さと、まだ解かれていない多くの謎をあらためて突き付けているようである。イトカワは地上観測データからは何の変哲もない、ありふれた小惑星である。小惑星は、小さいものほど数も多い。その意味で、太陽系内帯域に存在する最もありふれた小惑星の姿を、今回初めて見たと言ってよい。

(藤原 顕) 



イトカワの基本パラメーター
   
 軌道要素 a=1.3238AU e=0.2801 i=1.6223。
近日点=0.953AU 遠日点=1.6947AU
 主軸サイズ(m) X=535、Y=294、Z=209(±1m)
 取り囲む箱のサイズ(m) 550×298×244(±1m)
 自転周期 12.1324時間
 自転軸の向き 慣性空間[128.5, −89.66](黄道面にほぼ垂直
小惑星[90.53, −66.30*](逆スピン)、
自転軸のふらつきは測定誤差内
 質量# (3.510±0.105)×1010 kg
 密度 1.90±0.13 g/cm3

 青色文字は地上観測によってあらかじめ分かっていた値
 * 経度は「ラッコ」の頭にある黒い岩を起点にした東経値
 # 複数の測定者による平均値
   
詳細は、次に続く原稿も含めて『Science』(2006年6月2日号)
「はやぶさ」特集号を参照いただきたい。
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