No.290
2005.5

ISASニュース 2005.5 No.290 


- Home page
- No.290 目次
- 宇宙科学最前線
- お知らせ
- ISAS事情
- 科学衛星秘話
- 宇宙の○人
- 東奔西走
- いも焼酎
+ 宇宙・夢・人
- 編集後記

- BackNumber

ASTRO-EII 復活へ向けてカウントダウン!

高エネルギー天文学研究系 國 枝 秀 世  

くにえだ・ひでよ。
1950年,愛知県生まれ。
理学博士。名古屋大学理学部助手,同助教授を経て,
1999年9月より宇宙科学研究所教授。
2005年4月より名古屋大学大学院理学系研究科教授。
専門はX線天文学。
現在はX線天文衛星ASTRO-EIIのプロジェクトサイエンティスト。
NeXT計画に向けた開発,提案も行っている。


 dash   X線天文衛星ASTRO-EIIの打上げが近づいてきました。
國枝: 6月の打上げを想定して,最後の準備を進めているところです。私が宇宙研に来たのは,ASTRO-E打上げ(2000年2月)の半年ほど前でした。そのときは,衛星の打上げがうまくいかないとは夢にも思っていませんでした。それからは,まさに苦節5年。その苦労がようやく結実します。
  
 dash   ASTRO-EIIの衛星本体や観測装置はASTRO-Eとほぼ同じということですから,まさに復活ですね。
國枝: ASTRO-Eが失敗した時点で,新しいミッションを始めるという選択肢もありました。しかし,たとえ3年や5年遅れたとしても,この衛星は世界で一番だという確信を私たちは持っていたのです。とはいえ,逡巡はありました。そんなとき,日本のX線天文学を切り開いた小田稔先生がASTRO-EとM-Vロケットの関係者を自宅に呼んで,もう一度打ち上げる方向で頑張ってみてはどうか,と後押ししてくださいました。そのことがとても印象に残っていますね。小田先生ご自身,日本初となるX線衛星の打上げに失敗し,2号機で見事成功を収めた。それが「はくちょう」です。そういったご自身の経験と重ね合わせて,私たちを励ましてくださったのでしょう。
  
 dash   ASTRO-EIIには,どういう成果が期待されているのでしょうか。
國枝: 1999年にNASAのChandraとESAのXMM-Newtonという2機の大きなX線衛星が打ち上げられました。そして,2000年2月にASTRO-Eが上がるはずでした。3機はそれぞれ違った特性を持っていましたから,互いに補い,強め合う計画だったのです。5年たった現在の状況を見ても,やはり我々がやるべき観測が残っています。

 ASTRO-EIIのエネルギー分解能は,XMM-NewtonやChandraと比べて20倍も高くなります。XMM-NewtonとChandraでは決定的なことがいえない現象についても,ASTRO-EIIならばクリアにできると期待しています。X線を観測することで,宇宙の非常に激しい現象を見ることができます。ASTRO-EIIは,ダイナミックに動いている宇宙の姿を,これまでにない精度で見せてくれるはずです。銀河団を満たしている高温のガスがどのように分布し動いているのか,ダークマターの運動,さらにはブラックホールに物質が落ちていく様子も見えてくるでしょう。

 X線天文学のパイオニアであるブルーノ・ロッシ先生は,「自然は人間よりもはるかに想像力豊かである」とおっしゃっていました。確かに,自然には我々の想像をはるかに超えたものが潜んでいます。性能を高めたり,まったく新しい装置を開発することで,今までに見えなかったものを見て,世の中をひっくり返す。我々は,そういう気持ちでやっています。

  
 dash   次期X線天文衛星のプロジェクトも動きだしているそうですね。
國枝: NeXT衛星を計画しています。NeXTは,高いエネルギーのX線(硬X線)を観測できる世界で初めての硬X線望遠鏡を衛星に搭載します。高いエネルギーのX線は透過力が大きいですから,これまで隠されて見えなかった天体が姿を現すと期待しています。低いエネルギーでは気付かなかった宇宙の加速のメカニズムに迫れるかもしれません。硬X線望遠鏡は,名古屋大学が中心になって開発しています。私がこの4月から名古屋大学に籍を移したのも,その中心になって引っ張ることが一つの理由です。NeXTは,2011年から12年ころの打上げを目指しています。
  
 dash   子供のころから天文学者になりたいと思っていたのですか。
國枝: いいえ。私が初めて科学の面白さ,研究する面白さに目覚めたのは大学1年ですが,天文学ではありませんでした。理系で計算機が使えるし,ハンマー投げの実験台にもなれるということで,スポーツ科学の先生の手伝いをさせてもらったのです。ハンマーを投げるとき,どこにどのくらいの力がかかるのか,速度や重心はどうなっているのかなどを測定し,計算機で分析する。自然を科学するプロセスを体験して,面白いなと思いました。これが私のサイエンスの第一歩です。余談ですが,私が学生時代に記録した名古屋大学のハンマー投げの記録は,いまだに破られていません。
  
 dash   では,天文の研究者になってから面白かったことや感動したことは?
國枝: 小さなことでも,観測データの中から自分が世界で初めてのことを見つけると,興奮しますね。そういうワクワクする経験があると,研究者として深みにはまっていくものです。若い人にもぜひ経験してほしい。私は,これまでに3回くらい経験したかな。  大学院生のとき,自分たちで作った観測装置を積んだロケットが上がっていくのを見たときの感動も忘れられません。ASTRO-EIIの打上げは,内之浦に行こうかどうしようか,悩んでいるんですよ。ASTRO-EIIの復活をこの目で見届けたいというのもありますが,射場に行っても私たち実験の研究者はただ見守るしかない。それはもう,ドキドキです。X線の研究は,衛星がないとできません。今度こそ,という気持ちは強いですから,なおさらです。


#
目次
#
編集後記
#
Home page

ISASニュース No.290 (無断転載不可)