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南極周回気球実験(Polar Patrol Balloon)

 2002年12月末から2003年1月末にかけて,国立極地研究所と宇宙科学研究所が中心となり南極昭和基地より4機の大型気球を放球し,南極上空を周回させる気球実験が計画されています。4機の気球は,地球物理観測用が3機,宇宙物理観測用が1機です。南極大陸に沿って高緯度を周回するPPBは,地磁気座標で緯度50度から80度までの広範囲な領域を横切って飛行するため,様々な現象を観測することができます。地球物理観測では,1機の気球にVLF波動,電場,磁場,オーロラX線,全電子数を観測する観測器が搭載されます。同一の観測器を搭載した3機の気球をできるだけ近接させて飛翔させるバルーンクラスター飛行を行うことによって,様々な現象の2次元的な拡がりや時間変化が明らかになり磁気圏境界領域に生起する現象が解明できるものと期待されています。また,宇宙物理観測は,2週間から1ヵ月におよぶ長期連続観測が可能なPPBでは,従来の国内気球観測とは比較にならない500倍以上の高エネルギー一次電子の観測が期待されており,宇宙線の生成源,銀河系の中での伝播機構に新しい知見が得られるものと期待されています。新しい気球工学技術として,商業衛星を用いた観測データの伝送およびコマンド制御,太陽電池とニッカド水素電池を用いた電源の供給,CPUを用いたオートレベルコントロール等が搭載されます。現在,4機の観測器は,全ての動作試験および環境試験を終え,南極観測船「しらせ」に積み込まれ,11月14日の出航を待つばかりの状態です。宇宙科学研究所からは並木技官,松坂技官,斎藤助手の3名が参加し,昭和基地において気球放球・電波受信を行うことになっています。

(山上 隆正) 


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セレーネ衛星の熱試験モデルによる熱真空試験

 月探査周回衛星セレーネは,2005年夏の打ち上げを目指して現在フライトモデルの設計と一部製作を進めています。衛星の構造試験モデルによる機械環境試験はこの春に完了しました。熱試験モデルによる熱真空試験は10月23日から約2週間にわたり筑波宇宙センターの総合環境試験棟で行われました。熱試験モデルには,衛星本体のモデルだけでなく,観測機器チームが準備した15種類の搭載機器のモデルも組み込まれています。写真(右)は大型スペースチェンバー(直径13m)への搬入を待つ熱試験モデルです。セレーネ衛星は3機の衛星から構成され,アポロ計画後では人類が月に送る最も大型の探査機です。写真の作業者と比較するとその大きさが良くわかります。セレーネ衛星は観測機器搭載面を常時月面に向けるための3軸姿勢制御を行います。この熱条件を模擬するため,観測機器搭載面側に月面からの赤外輻射を模擬するIRパネルを設置し,その反対側にソーラーシミュレーターを配置して試験を行いました。この試験により衛星の熱数学モデルの検証と熱制御系の性能の確認が行われました。1996年に宇宙研と宇宙開発事業団の共同プロジェクトとして始まったセレーネ計画も本格的な開発の山場にさしかかりつつあります。次の大きなイベントは来年の5月から予定されている噛合わせ試験です。

(佐々木 進) 

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マイクロ波イオンエンジンのプロトモデルが18,000時間の自律・耐久運転を達成!

 2003年5月に打上げ予定の小惑星サンプルリターン計画(MUSES-C)探査機には惑星間航行用エンジンとして宇宙科学研究所が独自開発したマイクロ波イオンエンジンが搭載される。そのイオンエンジンのプロトモデルが18,000時間の自律・耐久運転を達成した。2000年3月30日18,000時間のミッション要求を実証すべく耐久試験を開始したイオンエンジンは,ほぼ2年半の長期にわたり自律的運転を継続して来たが2002年10月25日午前2時に当初の目標であった18,000時間を経過し,現在もその運転を継続中である。耐久試験に使用されたエンジンはMUSES-Cのプロトモデルで,フライトモデルと同一設計・同一材料・同一加工が施されている。


累積運転時間およびスクリーン電流とカレンダー(暦)時間


 図は,耐久試験開始後から18,000時間を達成するまでの累積時間(左目盛り)と推力に相当するスクリーン電流(右目盛り)をカレンダー(暦)時間に対して示したものである。図中に示すように累積時間が停止している箇所があるが,これらはフライトモデルの試験・調整のために耐久試験設備を使用したこと,法定計画停電や耐久試験設備の定期保守・点検のためにエンジンを停止したこと,冷却系など地上支援装置の故障などによりエンジンを停止したこと,によるものでエンジンそのものに耐久性を疑わせるものは全く無かった。また,全期間を通じて要求推力性能を維持しており,これからも信頼に足るエンジンであることが実証された。


イオンエンジンの運転の様子


 写真は18,000時間達成後に撮影されたエンジン運転の様子である。推進剤はキセノンで,手前の輝点の中和器からは電子が放出されている。エンジンのイオンビーム加速・排出口周辺には,キセノンイオンのスパッタリングを受けた損耗箇所が見られるが,これらは予想の範囲内であり,エンジンの性能に影響を及ぼすものでは無い。

(清水 幸夫) 

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宇宙学校・北海道

 さる11月9日,札幌市の青少年科学館で今年の宇宙科学研究所の宇宙学校を開催しました。250人くらい入る会場は,立ち見が出るほどの盛況で,素朴でいい質問がいっぱい出ました。太陽系と生命,未来技術,天文学の3時限に分けて実施したのですが,天文学のところは相変わらずほとんどがブラックホールについてのもので,付き添いで来ている保護者の方々もびっくりしていました。大人では考え付かないような質問が次々と飛び出してくるのです。
「ブラックホールが何もかも吸い込む天体なら,そのうち宇宙は全部ブラックホールに呑み込まれてしまって,宇宙の全部がブラックホールになってしまうんですか
などは,その好例です。

 北海道の子どもたちは,心の優しい子が多くて,
「宇宙へ行ったイモリは,地球に帰って来てからちゃんと重力に適応できましたか
と心配そうに訊ねるのです。東京の宇宙学校と異なるのはそこです。こましゃくれてないのです。知ったかぶりでもないのです。どこかの本で読みかじったことを聞くのではなく,心に浮かんだことを素直にすっと口に出して質問するのです。私が北海道の子どもたちが大好きな所以です。こんな子どもたちが未来の日本を築く主体になって欲しいなと思いながら新千歳空港を後にしました。

(的川 泰宣) 

 


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「編集長のメモ」

《糸川英夫先生の思い出集の出版》

 「日本のロケット開発の父」糸川英夫博士の人間としての側面を多くの人に知ってほしいという願いから,『人間糸川英夫博士とは』(仮題:出版社はオフィスHANS)が近く出版されます。
 戦後に糸川先生がヴァイオリンを含む音響学などに携わった頃の糸川研究室の人たちから始まって,ロケット開発のパイオニアとして活躍された頃の人々はもちろん,組織工学研究所の創立・発展・収束の時代の人々,糸川先生が人生最後のご活躍の場として長野県丸子町音楽村に移り「アース・クラブ」を組織してからの人たちなど,糸川先生の生涯のさまざまな局面で交流のあった59名の 方々が寄稿しています。
 編集は,東京大学の糸川研究室で初期に研究生活を送られた金澤磐夫氏が責任者となり,大変多くの方がボランティアとして協力されました。糸川先生を知る人たちにとってその魅力的な人柄を一層偲ぶ上でも,また若い人たちが人生を創造的に生き抜くための糧とする上でも,大変楽しみな一書になるはずです。


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エレクトロスプレイ質量分析  - Fenn博士にノーベル化学賞

 米国のJohn B. Fenn博士2002年度のノーベル化学賞を共同受賞されました。Fenn先生(当時Yale大)は,宇宙航空研に1977年3ヵ月ほど滞在されました。その当時山下は,化学反応をともなう流れや,真空中への超音速自由噴流による気体分子凝縮の基礎過程,またそれらを対象とする質量分析法を研究していた縁で,在外研究員としてFenn先生の研究室に1980年から1983年にかけて滞在し,今回の受賞対象となったエレクトロスプレイを質量分析用のイオン源として確立する研究をしました。エレクトロスプレイの最初の論文はYamashita and Fenn 1984年J. Phys. Chem誌に出たものです。この論文は初出の基本論文なので,これを引用している論文数は571にのぼります。またElectrosprayを検索語として医学分野のデータベースであるMedlineを検索すると6,000以上の論文がヒットし,また広い分野をDialogで検索すれば20,000以上があがることからもわかるように,極性の高い生体分子の質量分析法としてエレクトロスプレイが広く適用され,多くの研究成果に寄与していることがわかります。

 エレクトロスプレイは,液体表面に分布する電荷と液体周囲に形成される強い電場によって,荷電した微小な液滴が分散する現象です。この現象は古くから知られ,工業的にも車の塗装などに利用されてきました。エレクトロスプレイによりつくられた液滴から溶媒分子が蒸発すると,液滴表面の電荷密度が上昇して表面張力を上回るようになり,液滴はいくつかの小滴に分裂し,溶媒分子の蒸発は加速されます。極性の高い分子が液滴のなかにあると,液中の水素イオンなどと会合した分子イオンが得られます。他のイオン化法と比べると,液中のイオンや分子をそのままの形(インタクト・イオン)でとりだせる特徴があります。

 ところで,質量分析のためのイオン化法として利用するには,ひとひねりが必要でした。すなわち,溶媒分子の蒸発を促進するには熱浴としての気体が必要であり,イオンの質量分析は真空中でなされるため,生成したイオンを真空中に導入する必要があります。気体を真空中に自由噴流として導入すると,断熱膨張により急激に温度が下がり,イオンは格好の凝縮核となり,凝縮性の分子が存在すると導入したイオンはまたたくまに溶媒和してしまいます。伝熱学や気体分子の反応や凝縮素過程の研究からの発想により,運動する帯電液滴に対向して乾燥した気体を流すことにより,エレクトロスプレイは質量分析用のイオン源として用いることができるようになりました。

 注射針と高電圧電源による実験机上での観察を手始めに,何のイオンも検出できない状態からまずはブロードな信号を得て,それをてがかりに質量スペクトル様の信号へと育て,スペクトルのピークのイオン種を同定し,どのような過程が関与しているか推定して,装置を改良し実用的なイオン源として確立した過程は,研究者として至福の日々でした。ブレークスルーを得た後は,一気呵成にエレクトロスプレイの適用範囲は拡げられ,アミノ酸からそのオリゴマー,多価イオンといった様々な生体分子の分析やさらに負イオンのエレクトロスプレイとすすみました。

 今回のFenn先生の受賞対象はタンパクなど生体高分子のエレクトロスプレイ(1989年の論文)です。高分子に多数のイオンを会合させることにより,質量/電荷比を小さな値にして,質量走査範囲の限られた質量分析計でも高質量の分子を分析することを可能にしたものです。高い価値を認められた業績について,その基礎を確立することに私が貢献できたことを喜んでいるところです。これは,ひとつに,気体反応素過程,伝熱学,希薄流体力学,質量分析という宇宙研の研究の懐の深さに基づくものです。Fenn先生のもとの専門は化学であり,そのあと流体力学分野に入り,二つの分野を総合して分子線化学の基礎を築き,その業績はノーベル賞に値すると周囲ではささやかれていました。

 宇宙研教官の停年退官にあたる63歳から,生物・医学分野を中心とする質量分析という新たな研究分野に転進し,85歳でノーベル賞を受賞されました。自分の科学的な好奇心に忠実に,自由闊達に研究を展開し,多くの分野の知識と興味を総合して粘り強く達成された業績をみるにつけ,短視的な目標のもとに管理される「研究」とはおよそ対極をなすものであると,今回のFenn先生の受賞には感慨ひとしおです。

(山下 雅道) 

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