No.257
2002.8

ISASニュース 2002.8 No.257

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第33回

宇宙を探るセンサーと将来の夢

村 上 浩  

 1998年末から始まった「宇宙を探る」シリーズも,今回が最終回です。4年前の第一回を担当した縁で,編集部から最終回のまとめを執筆するよう依頼を受けました。うまくまとめられるかどうか心もとないですが,これまで30人程の方が書かれた原稿をながめながら,感じたことを書いてみようと思います。

 第一回の執筆依頼をいただいたときには,宇宙からやってくる,γ線から電波にいたる「電磁波」を,私達はどうやって検出し宇宙を探っているのか,がテーマとのことでした。しかし4年間の記事を見てみると,話題はさらに広がりを見せています。これまでに登場した各種センサーあるいは検出技術を,研究分野,検出対象別に分類してみましょう。数字は記事の編数です。

 天文学用センサー
  赤外線・サブミリ波  8 
  紫外線  1 
  γ線・X線  8 
  電波  1 
  宇宙線(高エネルギー粒子)  1 

 太陽系科学用センサー
  赤外線           1 
  可視光  1 
  紫外線  1 
  X線  1 
  中性粒子  2 
  荷電粒子  1 
  ダスト  1 
  その他  3 

 これを見ると,粒子やダストの検出器なども含まれています。でも考えてみるとこれは当然の成行きです。私達は,電磁波に限らず宇宙からの様々な情報を受け取り,それらがもたらす情報を総合して,宇宙を知ろうとしているのですから。

 私達は中性の地球大気の中に住んでいますが,一歩外に出れば,太陽から電子・陽子を始めとする荷電粒子が降り注いでいます。地球の磁気圏に捕らえられた荷電粒子も飛び交っていますし,また宇宙塵や隕石も降ってきています。太陽系の外の情報を伝えてくれるのは恒星,銀河,星間物質が放射する電磁波が主ではありますが,星間空間からガスやダストが太陽系に入ってきていますし,また銀河系の彼方から高速の粒子も飛び込んできます。結局,私達が住んでいる地球を取り巻く環境を調べ上げると,その環境をつくり出している宇宙の現象が理解できる,ということなのですね。

 惑星科学では,地球にやってくる粒子や電磁波を待ち構えているだけでなく,探査機を使って直接惑星間空間や惑星(衛星,小惑星,彗星)に出かけて行って観測ができるようになりました。このため各種センサーは,探査機に積むことができるように,小型で軽量,そして過酷な宇宙環境を長期間生き抜くことができるように作られます。しかも精密な測定ができるように,惑星科学者達は腕を競うことになります。

 これに比べると,私自身も含めた天文研究者は,100億光年先の銀河などは言うに及ばず,すぐ隣の恒星にさえ直接出掛けて行くことは出来ません。ですから電磁波や粒子が向こうからやって来てくれるのをひたすら待ち続ける,受け身の存在です。まるで巣を張って獲物を待ち受けているクモみたいですね(ちなみに私はクモが大の苦手です。これは近親憎悪かも)。ただ,やって来たフォトンのひと粒も無駄にはしない,という貪欲さが売り物かも知れません。

 4年間にこのシリーズに登場した各種センサーは,「宇宙を探る」センサーのごく一部に過ぎません。これからも様々な新しいセンサーが工夫され,開発されて行くでしょう。天文の分野では,重力波という全く新しい観測手段にも期待がかかります。センサーだけでなく,それを搭載する宇宙探査機もきっと進化して行くでしょう。いくつかの探査機の編隊飛行や,大きな帆で太陽の光を受けて進むソーラーセールなども検討されています。こんな新しい方式の探査機には,やはり新しいセンサーが搭載されて,それまでできなかったさまざまな観測が行なわれるはずです。

 そのうちには恒星間飛行も可能になり,天文屋もクモ生活を卒業して,惑星屋さん達と一緒に,4光年離れたケンタウルス座α星まで,観測器をいっぱい積み込んだ探査機を送り出す,なんていうわくわくする話を聞きたいものですね。

(むらかみ・ひろし) 


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