No.247
2001.10

ISASニュース 2001.10 No.247

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第25回

窒素振動温度の測定

小 山 孝 一 郎  

  地球大気の約80%を占める窒素分子という言葉は誰でも知っていますが,振動温度という言葉はほとんどの人に馴染みがありません。

 窒素分子の数より約1000万分の一も少ない高度100 km 付近の電子の温度が中性ガス温度より数100度高い理由は今でも明らかでありません。しかし窒素の振動温度が3000 K以上であれば観測された電子温度の値は納得できそうですし,これまで私達が測定した電子エネルギー分布にも窒素分子と電子との相互作用を示唆する振舞いがみられています。論文を読みあさっても振動温度に関する理論的な論文は数多くみられますが,宇宙空間で振動温度を正確に測った報告が見られませんでした。ということで,振動温度を何とかして測って見たい誘惑にかられ,まず学部学生と,その技術的可能性を確かめました。次に修士課程の学生を使って室内で窒素振動温度を測定し,最後に博士課程の学生を使ってロケット搭載用としてまとめ1997年 S-310-24 号機によるロケット実験を成功裡に終えました。2002年に再度ロケット実験を予定しています。

  さて,窒素振動温度とは何でしょうか。図1に示すように,窒素原子がコくっついた窒素分子は空間を飛び回っています。飛び回りながら原子同士はお互いの間隔を拡げたり縮めたりして振動し,かつ回転しています。飛び交っている窒素分子の運動エネルギーは連続的で,振動,回転のエネルギーは離散的で,ある範囲に分布しています。その平均を温度に換算してそれぞれ大気温度,振動温度, 回転温度と呼びます。電離層の中では励起酸素原子, 或いは3 - 4 eVのエネルギーの電子を衝突させることで窒素分子に強い振動を与えることができます。振動励起された窒素分子は高度100km付近では電子を加熱する可能がありますが,高度300km付近では電子密度に影響します。電離層嵐時の電子密度の変化は高い窒素振動温度を仮定すると理論値とより良い一致を示すとする論文もあります(酸素原子イオンと窒素分子との反応は振動温度に大きく依存するからです)。

図1 回転,振動b,運動エネルギーの概念

 次に求められたスロート出口条件を境界条件としてノズル膨張部Aの数値解析が行  さて,窒素振動温度はどうして測定できるでしょうか。振動励起された窒素の状態を直接知ることはできないので,まず約600eV以上のエネルギーを持つ電子によってもともとの振動情報を維持できる状態で窒素を電離します。すると窒素分子イオンから波長427.8および423.6nmに強いピークを持つ光が出ます。光の強度比から振動温度を計算できますが,図2のように得られたスペクトルに理論カーブをフィットさせると振動温度のみならず,回転温度,および窒素密度が同時に得られます。従ってこの装置は之まで不可能であった高度100km付近の大気温度の直接測定にも威力を発揮し,またこれまで理論的な研究しか無い振動励起された窒素分子と電子との相互作用に関する室内実験にも利用され得ます。

図2 定理で得られた理論カーブ(実線)と観測スペクトル(点線)はよく合う。
  この際,回転温度,振動温度とも室温(〜300K)を反映している。    

  この原理に従えば,測定器は,電子銃と弱い光を増幅して検出する分光計より構成できることになります。開発の最終段階で測定器の性能を確認する必要がありますが,振動エネルギーの緩和時間が長いことを利用して,0.7トール1700℃まで熱した窒素ガスを10-4トールの空間にノズルより吹出させそこで振動温度が1700Kである事を確かめました。室温で測定し,測定器が室温と同じ振動温度を与えることを確認したのは当然です。

 本測定器の開発に当たり,本研究所の市川行和教授を初めとする多くの方々に助けて頂きました。これらの方々の厚意にも答えるべく,来年の実験を成功させたいと願っています。

  測定器およびロケット実験の詳細については http://www.ted.isas.jaxa.jpをご覧ください。

(おやま・こういちろう) 


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