小野田 淳次郎
本ISASニュース前号で述べたように,M-V-4号機では,ノズルのスロート・インサートが点火後まもなくから徐々に破損脱落し,これにより耐熱性の低下したノズル・スロート付近がやがて高温の燃焼ガスにより溶損し,高温ガスがノズル側面から噴出,周辺の機器を焼損したために,姿勢制御系が機能を停止し,姿勢が乱れた結果,衛星を所期の軌道に投入出来なかったと考えられている。この結論には比較的短時間で達することが出来た。問題は何故スロート・インサートが破損したのかであるが,この究明にはやや時間を要している。
M-V-4号機不具合の原因究明のために所外の有識者を含めた調査特別委員会が設置され,2月18日と3月16日に開催されている。同委員会にはノズル・スロートの素材であるグラファイトに詳しい東工大の松尾陽太郎教授,田邊靖博助教授にも参加していただいている。また,宇宙開発委員会技術評価部会では2月11日,2月21日及び3月17日にM-V-4号機不具合原因について審議が行われている。この時部会に提出した資料は宇宙科学研究所のホームページ(http://www.isas.jaxa.jp/)でも公開されている。
これらの資料にも述べているように,ノズル製造メーカとノズル・スロート素材メーカの製造工程調査を実施したが,ノズル・スロートの破壊に直結するような事項は発見されていない。また,M-V-4号機の素材物性値も,従来のものに比べて特異な値を示してもいない。発射後射点付近から回収したグラファイト破片からも特筆すべき情報は得られていない。
一方で現在,詳細な解析が鋭意実施されつつある。固体ロケット内のアルミナ粒子を含む複雑な流れを解いてスロート・インサートへの熱入力を評価する作業,これを受けて非線形応力解析を実施する作業,更にその結果を評価するための多軸応力下での破壊則の作成の3作業を,それぞれ稲谷助教授,峯杉助教授,八田教授をチーフとする3グループ(と言っても構成員1名のグループもある)が連携して実施中である。
(おのだ・じゅんじろう)