No.216
1999.3

<送る言葉>   ISASニュース 1999.3 No.216

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くまさん故郷へ

横田力男  

 車庫長の高成定好さんが3月で定年退官される。A棟裏や正面ロビーのあたりでドングリまなこを光らせ東北弁まるだしの大きな声で立ち話をしている堂々たる体格のひとを心当りの方は多いと思う。その話っぷりが語るように高成さんは岩手県の出身で1971年から三陸大気球観測所の技官として気球放球作業に従事し観測実験を支えた主要人物の一人である。私も年1回ぐらいイワナ釣りに惹かれて実験に参加し高成さんと仕事をする機会があったが,あの体格が白いつなぎの作業着に身をつつんで放球車を自在にあやつり号令をかける姿に接すると放球時の緊張からくる不安感が消えていったことを思い出す。このように気球ランチャー車や大型フォークなどの運転が極めてうまく,車両の保守,整備や作業員への重車両の運転指導は高成さんにまかせておけば安心していられたという。そんなことから気球が打ち上げられるたびに鳥海山の受信点に配置された大型移動観測車は高成さんしか運転できなかったし,観測器の山中での回収では道なき道をジープを巧みにあやつって抜群の地理感で突進したという。観測器の荷姿処理にあたってもロープの縛りやゴム気球の端末処理などに“万力の手”をもつ高成さんのほんとの“ちから”が大いに発揮?されたという。妙に納得できる話である。

 さて気球グループによる高成メモの最後には「松茸のある場所がわかる人」と書かれている。放球班としての高成さんのたぐい希な特性の出どころはここにあろうか。松茸に象徴されるように山は道を歩くものと思っている都会人とはまったく違って高成さんの山は“さわぐ”ものであるし,鹿や熊は動物ではなくて“けもの”である。相模原勤務となって所長車を担当するようになったのもこのような生活体験からくる不思議な安定感の故であろうか。科学が基礎におく論理的思考方法を自らの人生やこころの問題に敷衍することには多くの人が躊躇するように,相模原にいても春はタケノコやうどを秋になればじねん薯を探してみんなに振る舞う高成さんのような人の感性こそ求められているものである。酒でも飲みながら岩手に帰った高成さんの話を伺いたいものである。ほんとの熊よ逃げろ。

(よこた・りきお)



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