No.216
1999.3

<送る言葉>   ISASニュース 1999.3 No.216

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「泰然自若」・「ぎんが」・「みさきめぐり」
- 槙野先生を送る -

井上 一  

 私が,槙野先生を親しく存じ上げるようになったのは,わが国初のX線天文衛星になるはずだったCORS-Aの打ち上げ前の大騒ぎからだった。当時,私は,田中研の助手に採用されたばかりだった。宇宙研田中研と名古屋大学とで開発中の観測装置はいかにも準備不足で,たびたびの徹夜騒ぎとなったが,槙野先生の精神的・体力的なタフさはきわめて印象的だった。そして,打ち上げを迎え,半地下ではじめて打ち上げの瞬間を経験した。しかし,槙野先生とともに半地下から飛び出して見ると,「3段目点火中止」のアナウンス。何のことかすぐにわからずにいると,槙野先生がぼそっと「打ち上げ失敗だ。上がって笑わず,落ちて騒がず。」とおっしゃった。この槙野先生のひとことは,失敗を知った大きなショックとともに,鮮明な記憶として残っている。

 その後,槙野先生は名古屋大学から宇宙研に移られ,日常的にいっしょに仕事をさせて頂くようになった。苦労をともにさせて頂いた中で特に印象深いのは,槙野マネージャーのもと,皆でかちとった「ぎんが」の成功である。「ぎんが」は,数々の新しい発見を行ない,日本のX線天文学を世界の最前線に押し上げた。これには,槙野先生のお力によるところが大きい。

 先生は,ごきげんでいらっしゃると,自然と鼻歌が出る。長年の趣味でいらっしゃる合唱で鍛えられたのどである。槙野先生のとなりの部屋に居をかまえさせて頂いたことがあったが,先生の歌声をおおいに楽しませて頂いたものだった。現在も,若い連中とつれ立ってカラオケに出かけ,おはこの「みさきめぐり」を聞かせて下さる。また,その雰囲気からは想像しにくいが,先生はジョークの名手でもいらっしゃる。ロケットや衛星の準備でてんてこ舞いの時に,ぼそっとしゃれたジョークを飛ばされる。それで,皆に元気が蘇ったものだった。

 その若いお見かけにもかかわらず,先生もこの3月で停年を迎えられることとなった。どうか,これからは,ゆっくりと学問や趣味をお楽しみ頂きたいと思います。同時に,実験のきびしさをつい忘れがちの私たちに,これからも変わらず,きびしいお言葉を下さいますようお願い申し上げます。

(いのうえ・はじめ)



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