No.198
1997.9

ISASニュース 1997.9 No.198

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第10回 輝きながら消えるプラズマ - 再結合プラズマ -

核融合科学研究所   加藤隆子

 太陽及び高温プラズマ天体から紫外線,X線領域の分光による観測がされるようになりその解釈のために高温プラズマの原子過程が研究されましたがそこで中心的な役割を占める過程は電子衝突による電離,励起過程でありました。超新星の残骸からのX線は電離が進行しているプラズマからと考えられていますが宇宙で考えられるプラズマのほとんどが電離過程と再結合過程が釣り合っている電離平衡プラズマと考えられています。

 さて目を地上の実験室の高温プラズマに向けて見ますと高温プラズマを長時間運転するのが難しいためとプラズマと容器との相互作用により常に粒子のリサイクリング及び拡散があるためほとんどのプラズマが非平衡電離プラズマです。プラズマがたとえ定常でもイオンの電離度は電離平衡になっていないことが多いのです。私は太陽フレアーはこの様な非平衡電離プラズマではないか考えています。実験室プラズマでも今までは電離と励起過程が主に研究されてきました。しかしながら最近再結合過程が注目されるようになりました。例えばダイバータープラズマではプラズマからの粒子の壁への衝突による負荷を押さえるため放射損失を多くし,温度を下げ壁を保護することが考えられています。プラズマの温度は1eV (〜104K)以下となりこの領域では高温領域のプラズマでつくられたイオンが再結合する際に発生する強い放射が観測されています。又レーザーにより生成されたプラズマはすでに長年研究されていますが,レーザー生成プラズマはレーザー照射が終わると再結合プラズマとなります。これを利用してX線レーザー等の研究が行われています。z荷イオンからのスペクトル線を考える場合z荷イオンの基底状態から起因する成分(電離プラズマ成分,これは励起過程によるもの)と電離度がひとつ上のz+1荷イオンから起因する成分(再結合プラズマ成分,これは再結合過程によるもの)との和で表せます。どんなスペクトル線でも電離プラズマ成分と再結合プラズマ成分とを持っています。電離平衡プラズマでは電離プラズマ成分によるスペクトル線が主要となります。イオンの電離度がそのプラズマ温度で期待される電離平衡値より高い場合は再結合プラズマと呼ばれ再結合が進み電離平衡値へ近づこうとします。再結合プラズマは低温度で強く光り有終の美をみせているようです。

 天体では電子衝突でなく光による電離で生成されるプラズマがありますが,この場合は電子温度が電離度に比較して低いために主に再結合過程によって光ります。この種のプラズマは電離平衡であっても再結合プラズマ成分が大きくなります。再結合過程には宇宙でおなじみの放射再結合の他に二電子性再結合と三体再結合があります。二電子性再結合は二電子励起状態を経て再結合する過程で裸のイオンから水素様イオンへの再結合では起こりません。又低温プラズマではおこらず高温プラズマで重要となります。K殻イオンの二電子性再結合については以前ISASニュースで太陽フレアーについてご紹介したようにかなり研究が進んでいますがL殻イオンについてはまだ充分調べられていません。L殻イオンでは(例えば炭素のBe様イオンC+2からB様イオンC+1へ)二電子性再結合過程は非常に多くの複雑な二電子励起状態を経て再結合をします。又再結合する先が基底状態ではなく主量子数が10-100の高励起状態になります。この様な高励起状態では電子及びイオンによる衝突過程により局所熱平衡状態となり再結合しても実質の再結合とはならなくなり実効的な再結合速度係数が低密度の時の値と比べて小さくなります。どのくらい小さくなるかを図1に示します。太陽コロナくらいの密度になると密度効果が効いてくることが解ります。又プラズマ中で電場,磁場があると高励起状態はこれらの外場の影響を受けます。スタルク効果による レベル間の混合の効果は密度効果とは逆に二電子性再結合係数を大きくします。電場による影響の例を図2に示します。これらの研究はこれからの課題です。この様に高 励起状態の関与する過程は密度及び外場の影響を受けやすく再結合速度係数に影響を与えプラズマ中の電離平衡値にも影響を与えます。最近人工衛星SOHOの観測から太陽 コロナ中のイオンに動きのあることが報告されています。高電離イオンが温度の低い領域へ動けば再結合が起こり再結合による光が放射されます。今後観測が精密になり 太陽及び宇宙でも非平衡電離で考える時代がくると思われます。

(かとう・たかこ)

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図1. (左) C+2からC+1への実効的再結合速度係数の温度,密度依存性。(ref.1)
図2. (右) C+4からC+3への実効的再結合速度係数。外場のない場合(長破線),1V/cmの電場の ある場合(鎖線(ref.2)と実線(ref.3))。

References
1. T. Kato et al, Physica Scripta, 55, 185 P (1997)
2. N. R. Badnell et al, Ap.J., 407, L91 (1993)
3. B.Reisenfeld, Ap. J., 398, 386 (1992)


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