「宇宙研との40年」
木村磐根
筆者と宇宙研との関わりは随分長いものになりました。厳密には宇宙科学研究所になるまでの東大宇宙航空研究所よりさらに前の生産技術研究所の時代からですから丁度40年になります。
大学院修士課程学生の頃,秋田での“発音弾法による風と気温の観測”のためのロケット実験に参加したのが最初ですが,1962年内之浦に発射場KSCができてすぐにK-8-11号ロケットを用いて100KHz近傍の電波雑音と,依佐見の長波信号の受信という電波関係の実験を初めて行いました。天文台の高倉先生との共同実験でしたが,線状アンテナをどう伸展させるかといったような今から思うとプリミティブなことにも双方全く経験がなく,巻尺状の材料を巻いたものを生産研の屋上から落下させて,伸展状況を観察したりしたことも懐かしい思い出です。当初はもちろんロケット実験だけでありますが,毎年夏期,冬期ほぼ 2回の実験に参加し,関与したロケット数は13機に上りました。その後衛星実験ができるようになって,「でんぱ」「じきけん」「あけぼの」「ジオテール」のプロジェクトに参加する事ができました。これらのうち,ロケットではほとんど失敗はなく,「でんぱ」衛星が,打上げ後3日で駄目になった以外は,大変高い成功率であったのは幸いでありました。
これらの中で,南極サイプル局からのVLF送信電波を「じきけん」衛星で受信し,この電波が,磁気圏内をスパイラル運動する高速電子とサイクロトロン相互作用して起こす現象を観測する実験を行いましたが,サイプル局,その送信制御を行うスタンフォード大学,カナダの地上観測局の間をATS-3静止衛星で結び,またスタンフォードと我々の滞在したローズマン追跡局(ノースカロライナ)との間は電話で結んだ超立体的な,リアルタイム磁気圏プラズマアクティブ実験となりました。これはNASAの支援を得て,宇宙研の向井教授,京大超高層の松本教授,スタンフォード大のTim Bellさんらとの共同実験でしたが,7月中旬から実験を始めて,ほぼ 1ヵ月間,期待した現象に全く遭遇できず落胆していたところ,立て続けにその現象が観測できたのがすごく感動的でした。また「あけぼの」衛星では金沢大の長野教授始め多数の国内,国外の研究者の協力を得て,アラスカ・フェアバンクスのHIPAS電離層加熱設備,ノルウエー・トオロムゼの同様の加熱設備との共同実験も成功裡に行われました。これらはいずれも,電離圏を含む広域プラズマ空間を実験室としたアクティブ実験のプローブとして衛星を使ったもので,今よく言われるテレサイエンスの走りとも言えます。これらの実験はともに文部省科研費国際学術研究の支援でおこなわれたものであります。