第8回 不思議なプラズマ集団運動:磁場とプラズマの相互作用
宇宙科学研究所 星野真弘
宇宙の体積の99.9%以上は「プラズマ」で占められていると言われますが,地球の上層大気や恒星大気をはじめとして惑星間空間や宇宙空間では電離した気体 「プラズマ」で構成されています。温度が1万度(104K)程度になると, 気体はほぼ電離したプラズマ状態になります。プラズマ状態は,19世紀後半 Crookes によって初めて発見されたとされていますが,固体,液体,気体の状態に対してその発見が遅れたのは,われわれの地球が宇宙空間に比べて冷たい惑星だからでしょう。しかし,現在では宇宙のなかで多種多様のプラズマ現象が知られています。身近なところでは北極や南極の夜空に観られるオーロラや最近の「ようこう」衛星により観測される太陽コロナのダイナミックな様子などがありますが,そのほかにも中性子星や活動銀河核などの天体現象でもプラズマが重要な役割を果たしていることが知られています。一般に宇宙での自然現象はプラズマ過程と密接に関連しており,そのためプラズマ過程は,宇宙現象を理解する上で重力場や素粒子などの物理と同様非常に重要な役割を果たしていることが知られています。
さて広大なプラズマ宇宙の構成要因である荷電粒子「イオン」や「電子」の個々の運動の様子を見てみましょう。複雑な現象を生むプラズマ過程も,個々の粒子の振る舞いは,私たちが学校で学んだ電磁気の性質に従っているだけです。もし「電場」があると「イオン」は電場方向に「電子」は反対方向に運動し「電流」を作りますが,その粒子の運動によって作られる電流は元の電場を打ち消す方向になっています。また「磁場」が存在すると「イオン」は時計回りに「電子」は反時計回りに旋回運動し,この場合も粒子は元の「磁場」を打ち消す方向に運動しています。(どうも荷電粒子は保守的で現状維持を好むようです。)もう少し専門的に言うと,「イオン」や「電子」の粒子は,マクスウェル方程式とローレンツ方程式と呼ばれる非常に簡単な式に従って運動しているだけです。しかし,これらの個々の粒子が一丸となって織り成すプラズマ集団運動は,個々の粒子の運動だけからでは想像もつかないまったく新しい現象を作ります。1928年に Langmuir が,現在プラズマ振動として知られているプラズマ中での縦波の波動現象を初めて発見しプラズマ状態の重要性を指摘し,また1942年には Alfven が低周波の横波の波動(アルフベン波)を理論的に予想し電磁流体力学の基礎を作りました。これらのプラズマ集団現象に伴う波動現象を媒介として,ある状態になるとプラズマに貯えられていたエネルギーを爆発的に開放することがあります。また宇宙線などの超高エネルギー粒子を作ることもあります。(集団現象となると現状維持を好むわけではないようです。人間社会で一人一人の性格からは考えられないことが,集団行動になると現れるのと似ていませんか。)これが華 やかな宇宙プラズマ現象となって我々の興味を引きます。
華やかなプラズマ集団現象は,理論的にはいくつかの素過程に分類されます。ビ ーム不安定などの様々なプラズマ不安定を初め,磁気リコネクション,衝撃波などの素過程が基本であると認識されており,これらの素過程は色々な天体現象に適用されて現象の理解が進んできました。例えば,磁気リコネクションは太陽コロナの活動的な現象を生むことが「ようこう」衛星の観測で明らかになってきており,また地球の夜側磁気圏ではオーロラの起源となる高エネルギー粒子が磁気リコネクションで作られていることが「ジオテイル」衛星のプラズマ直接観測で明らかにされてきています。しかし,我々のプラズマ集団現象に対する素過程の理解は,まだ観測結果を十分に説明するには至っていません。