No.193 |
<研究紹介> ISASニュース 1997.4 No.193 |
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さて,制御の特性はいろいろな尺度で測ることができますが,ここでは,安定性(ロバスト安定性)と感度特性(応答性)というものに注目してみたいと思います。まず,M-Vの場合には,尾翼がないので元々機体の姿勢(剛体モード)は不安定ですから,制御によってこれが安定化されるというのが第1条件です。さらに,ロケットのダイナミクスには,剛体モードばかりでなく機体の振動モードなども含まれていて,その全てを安定に保つ必要があります。ところで,制御対象としてのロケットのダイナミクスは,機体の剛性とか空力係数のような機体固有の特性や動圧のような飛行環境など(これらをシステムパラメータと呼ぶ)によって支配されています。これらのパラメータは,例えば,剛性試験や風洞試験によってかなりのレベルまで数値的に理解されてはいますが,正確な値は飛んでみるまでわからなくて,つまり,制御系の設計者は,これらパラメータに対してノミナル値からある程度のずれ(不確定性)を覚悟しなくてはなりません。このように,システムパラメータに不確定性がある場合にも安定性が確保されるような制御をロバスト制御と呼んでいて,ロケットのような一発勝負の世界ではとても重要な概念です。一方,感度特性というのは,目標の姿勢に対する応答性,あるいは,外乱に対する強さの目安を表します。特に,大気中を飛んでいく第1段目のロケットでは,空力モーメントのような大きな外乱に絶えずさらされていますので,応答性の良し悪しは直接姿勢制御の精度に結びつくことになります。
このように,ロバスト安定性と感度特性はともに重要なものですが,実は,この2つの要求は基本的には相反する要求と言えます。つまり,一方を良くすると他方が悪くなるのです。これは、例えば,自動車でいうと,あまり安定性が良すぎると操縦性が悪くなるのと同じです。ただし,基本的,というところがみそであって,確かに周波数を決めてしまうと,その周波数においては両者は全く相反してしまうのですが,ロバスト安定性が強く要求される周波数帯域,つまり,パラメータ変化の影響を受け易い領域(一般に高い)と応答性が要求される周波数帯域,つまり,剛体モードの領域(一般に低い)は異なるのです。制御系の設計というのは,このような重要な周波数帯域の違いを利用して両方の要求に対するバランスをとりながら,ある種最適なトレードオフを行い,全体として良い制御特性を得ることにあります。
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ただし,このような周波数整形のための作業は,設計者の経験的力量,あるいは,センスと言ったものに大きく左右されてしまい,かならずしも見通しの良いものではありません。これに対し,H無限大制御と呼ばれる比較的新しい制御系の設計理論では,設計者の経験に依存するようなやや高度で地道な作業を,系の応答性を表す関数(感度関数)とロバスト安定性を表す関数(相補感度関数)それぞれに対する重み関数(それぞれに対する要求の強さ)の設定と言う比較的単純な作業に置き換えています。重み関数さえ設定すれば,制御系の特性によって決まるある行列方程式を機械的に解くことによって制御フィルタのパラメータを求めることができ,設計をよりシステマティックに見通し良く進めることができます。H無限大制御理論を用いるにあたって,重み関数は周波数に応じてその大きさを変える必要があり,例えば,応答性が強く要求される周波数帯域では,感度関数に対する重み関数の大きさ(H無限大ノルム)を大きくし,一方,相補感度関数に対する重み関数の大きさは小さくしておきます。ロバスト安定性が要求される周波数帯域では,これとは逆のことをやるわけです。
制御系の設計理論は,伝達関数法に基礎をおく古典理論から始まって,状態空間法に基づく最適フィードバック制御理論を中心とする現代制御理論へと発展してきましたが,H無限大制御はロバスト安定性の保証という意味では弱点をもつそれまでの理論を発展させ体系化したもので,制御理論の発展の歴史の流れの中では,ポスト現代制御理論として位置づけられているものの一つです。
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モーションテーブル試験装置
制御則については,2度のモーションテーブル試験と20回以上を数える制御系のレビューを通して相当完成度の高いものに仕上がっていたと思います。それでもなお,制御系設計の妥当性について,フライトオペ中にも検討を怠らなかった制御グループの姿勢とチームワークは,M-V成功の一助になり得たのではないかと思っています。
(もりた・やすひろ)
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