No.191
1997.2


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M-Vロケットの打上げ成功

 今期のロケット打上げ実験は,MT-135,2機のバイパー,S-520と順調に終わり,いよいよ真打ちのM-Vロケット1号機が,当初予定日の2月7日から2度の延期を経て,2月12日13時50分に打ち上げられた。ロケットの飛翔は極めて正常で発射後478秒に,搭載した衛星MUSES-Bはキックモータから切り離され,ほぼ予定の軌道に投入された。軌道に乗ったMUSES-Bは国際標識97-005Aを与えられ,「はるか」と命名された。以後軌道制御がつづけられている。

(的川泰宣)
→M-V速報

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MT-135-65号機の打上げ

 MT-135-65号機は,1月13日11時に上下角78度で発射され,1分50秒後に最高高度55 Hに達した。発射後96秒にノーズコーン脱頭,114秒にパラシュート放出と開傘,118秒に温度センサー放出とオゾン観測開始が予定通り行われ,高度54Hから5Hまで,オゾン密度,気温および風向,風速を測定した。快晴と澄んだ大気のお陰で,落下しつつあるパラシュートのビデオ撮影にも成功した。
 フロンガスによる成層圏オゾン破壊の経年変化を観測するのが本ロケットの主目的である。平成2年の52号機から昨年の63号機まで12回の測定を行った。それらの結果によると,高度40〜45Hにおいて年2%のオゾン濃度の減少が見られる。しかし,その原因がフロンガスによるとはまだ結論出来ない。というのは今までの観測が太陽活動の減少期に行われたからである。太陽活動周期が11年であることを考えると,フロンの影響を見積るためには少なくとも今世紀末まで観測を続ける必要がある。
 昨年の9月の64号機では,搭載レーダの送信電65号機ではその不具合の原因を解明して改良を施した。新年早々の初ロケットであり,これに失敗してはM-V-1号機をひかえている実験班の士気に影響するかもしれないと心配であったが,幸先の良い打上げであった。

(中村良治)

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バイパーロケットによるチャフ実験

 約80〜105Hの高度領域の風の観測を目的としたバイパー2号機および3号機は,2月14日21時00分,および22時15分にあいついで宮原レーダの前に仮設したスパイラル発射台から打ち上げられた。わずか直径114@,長さ約35Bのマイクロロケットの先端に封入された約5000枚(厚さ1μE,巾約5@,長さ約25@)のチャフ(原義は"わらくず" )は予定通り,打ち上げ約135秒後に放出されたとみえ,宮原レーダはバイパー2号機では打ち上げ約173秒に,バイパー3号機では236秒にチャフのレーダエコーを捕え,その後約30分間にわたって風の観測を行った。このチャフ実験と同時に内之浦より西方約50Hにある郵政省通信総合研究所,山川電波観測所の大型中波レーダでは高度70 H〜100Hの水平風速を観測,また京都大学MUレーダ (内之浦の北東約600H)では高度80~110Hの流星エコーから求められる風速および温度変動,拡散係数などのパラメータを観測し,チャフ実験との比較を行って,地上観測との検証も行われた。
 本実験においては鹿児島宇宙空間観測所の職員をチーフに,相模原からの職員はオブザーバーとして実験に参加するというかたちをとった。実験の成功をとりわけ喜び,かつランチオペレーションに自信を深めたのは,鹿児島観測所の職員諸氏であったように思う。本実験を顧みるに,地上観測は,特に郵政省山川電波観測所,飛翔体による観測は本研究所の鹿児島宇宙空間観測所と役割分担することによって効果的な実験ができたと思っている。今後も両研究機関の施設の活性化につながるような魅力ある研究が提案されることを期待している。  最後に本実験はロケットの発射,および追跡等ほとんどが工学側に負担をかけた実験であった。科学担当者に代わって謝意を表する次第である。

(小山孝一郎)

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S-520-18号機成功

 LUNAR-Aペネトレータ系と同じ設計方法で製作された実験用ペネトレータ系を用いて,母船からの分離以降の全てのシーケンスをシミュレートし,加速度,姿勢,姿勢変動等の計測により,LUNAR-Aペネトレータ系に適用された設計方法の妥当性を確認する事を目的としたS-520-18号機は,平成9年1月30日16時30分鹿児島宇宙空間観測所より発射された。ロケットの飛翔は正常で発射後289秒で最高高度310Hに達し,約10分後に内之浦南東海上に落下した。
 その間計画された全ての実験が正常に実行され,データも受信された。特にDOM(軌道離脱モータ)の推進性能に関しては立上がり特性,残留推力に関し精度良い計測を実施する事ができた。又,月周回軌道で母船から分離後実施される90度の姿勢マヌーバに適用されるラムライン制御も予定通り実施され,制御系の特性が計画通りである事が確認された。  今期の観測ロケット実験(MT-135,バイパー,S-520 )は2月に予定されているM-V-1号機の打上実験の先駆けとしてその任を果す事ができ実験班員の志気は大いに高まっている。

(中島 俊)

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平成8年度第3次大気球実験

 上記大気球実験は,平成9年1月20日から1月29日まで三陸大気球観測所で下表のように実施した。今回,実験を行った2機の気球はいずれも気球工学実験であった。
 EV01-1号機は,気球材料として現在使用しているポリエチレン・フィルムと異なった特性を持つ気球材料のエバール(エチレン・ビニル・アルコール)10μE厚とポリエチレン15μm厚をラミネートしたフィルムで製作した気球である。このフィルムの特徴は,ポリエチレンに比べて波長7.5〜14.5μm領域の赤外線吸収率が5倍程度高く,強度が4倍程度強いものである。今回製作した気球は,容積が100立方メートルで,製作方法も新たにラップ・シール法で熱接着したものであり,その気球の飛翔性能試験を目的に実験を行った。気球は正常に上昇し予定高度16.2Hに達し,徐々に気球の内圧が上昇し気球は破壊した。今回の実験で,気球内圧力,破壊強度,気球内温度および外気温度等,今後の気球開発に必要な貴重なデータを取得することができた。
 BT120-1号機は,重量10L程度の科学観測器を高度40H以上まで飛翔させる高高度気球の開発の一環として製作されたものである。高高度まで気球を飛翔させるには,気球本体の自重を如何に軽くし,気球飛翔環境に耐える大容積の気球を製作することができるかにかかっている。製作した気球は,5.8μm厚のポリエチレン・フィルムを用い,自重が従来のものの4分の1の87L,容積が12万立方メートルであった。気球は,正常に上昇し高度50.2Hに達した。この到達高度はこれまでに我国で放球した気球の最高高度である。この結果,10L程度の観測器を50Hを越える領域まで飛翔させることが可能になり,宇宙および大気観測に広く使用されることになると期待される。

放球日 気球名 観測項目 高度 観測時間
1/24 EV01-1 飛翔性能試験 16.2H 1時間40分
1/27 BT120-1 飛翔性能試験 50.2H 3時間45分

(山上隆正)

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「あすか」NASA調査委員会の評価

 「あすか」は,この2月で打ち上げからまる4年を迎えますが,大きな問題なく無事観測を続けています。「あすか」の観測は世界の研究者からの観測申し込みにもとづいて行われており,その公募観測も第5期を迎えています。これまで観測した天体は1000を越え,観測データに基づく論文は200を数えようとしています。また,「あすか」の観測をもとに,国内だけでも,これまで14人が博士の学位をとり,13人が学位審査中です。
 さて,「あすか」からの観測データの受信や,米国での観測申し込みの受け付け,一般解析者のための共通解析ソフトの整備,観測申し込み者の占有期間がすんだデータの管理とサービスなどには,NASAの協力を得ていますが,最近,NASA内の調査委員会において「現在NASAが運用のための予算を提供している8つの天体物理学ミッションに対し今後も予算提供をつづけるべきか」の評価が行われました(NATURE誌1996年10月31日号参照)。その結果,「あすか」は,最近打ち上がったばかりの赤外線天文衛星ISOについで第2位の高い評価を得て,宇宙研の「あすか」に続く次のX線天文衛星ASTRO-Eが打ち上がる予定の2000年まで,「あすか」運用協力への出資が延長される見通しとなりました。「あすか」は,今後とも,世界のX線天文台として,天体物理学の発展におおいに貢献することが期待されます。

(井上 一)

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SFUシンポジウム開催さる

SFUシンポジウムの会場風景  

 宇宙実験・観測フリーフライヤ(SFU)シンポジウムが東京大学本郷キャンパスの安田講堂において,平成8年12月10日,11日の日程で開催された。SFUがスペースシャトルで回収されてからおよそ1年が経過し,軌道運用解析や関連実施機関の実験成果を公式に発表する場である。シンポジウムの内容は,SFUの全体ミッション概要,本体システムの概要,軌道運用の概要,各実験成果の報告,若田宇宙飛行士の特別講演,および「宇宙実験・観測の将来」をテーマにしたパネルディスカッションで構成された。世界初の観測結果や実験成果の発表,若田宇宙飛行士の貴重な体験談,軌道上で発生した不具合を含む今後に生かすべき教訓談や回収衛星ならではの成果も数多く披露された。また,パネルディスカッションでは宇宙を活動の場とする非常に幅の広い観点から活発な討論がされ,有人宇宙活動と無人宇宙活動の将来の役割りなどにも議論が及んだ。期間中,場所柄もあり将来を担う学生の聴講も多く,記帳参加者578人,シンポジウム関係者を含めると600人を超える参加があった。シンポジウムで配布されたSFU成果報告書はインターネット上でも公開されている。

(清水幸夫)

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GEOTAIL関係の国際シンポジウム

 「GEOTAIL」衛星は打ち上げ以来4年半になるが順調に観測を続けている。これまで磁気圏尾部の構造や磁気リコネクション過程による粒子加速・加熱のメカニズム,プラズマ波動の介在する微視過程などについて幾多の新しい知見が得られてきている。その成果を総括し,さらに今後の展望を議論する目的で,「地球磁気圏尾部研究の新たな展望」と題した国際シンポジウムが昨年の11月5〜9日の5日間にわたって金沢市の石川県教育会館で開催された。参加者は170有余名で,そのうち外国からの参加者は米国から47名,ロシアから10名を含めて76名であった。連日,朝8時半から夕方6時までの盛りだくさんの内容の含まれたプログラム構成であったが,ほとんどの参加者がフルに会場にいたのはGEOTAILを中心とする最近の観測成果から目を離せなかったからであろう。その成果を一層際立たせていたのが計算機シミュレーションとの連携プレーであり,また,この2年程の間に相次いで打ち上げられた米国やロシアの衛星との共同観測による総合データ解析結果で,現象の時間空間発展のダイナミックスが明らかになってきている。特に,POLAR衛星で撮影されたオーロラ発達の様相とそのエネルギーの源である磁気圏尾部の粒子加速領域を観測するGEOTAILの解析結果の対応には多くの人の耳目を奪った。多くの外国人参加者から,日本の若手研究者の研究成果に対する賛辞と今後のGEOTAIL観測への更なる期待が寄せられて,シンポジウムの幕は降りた。その1カ月後にGEOTAIL衛星の第20回目の軌道修正が行われ,まだしばらくの間は元気に観測を続けていけることになった。
 なお,本シンポジウムの開催に際しては,地元の金沢大学の長野教授をはじめ所内外の多くの方々のご支援とご協力を頂いた。この機会を借りて深く感謝する次第である。

(向井利典)

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NASA宇宙科学局長のKSC来訪

 さる1月31日,NASAの宇宙科学局長W.ハントレス博士ら6名の一行が,内之浦の鹿児島宇宙空間観測所を来訪した。西田所長,松尾副所長,上杉実験主任らが対応し,歓談と施設見学を行ったが,ミュ−・センターのM-Vロケットの模型を見て,「予想をはるかに凌駕して大きいですね」と,局長補佐のピルチャー博士の弁。宇宙科学副局長のハッキンス博士は,「コントロール・センターの飛翔安全と電波誘導の管制システムはシンプルで機能的だし,ミューの作業スケジュールが非常に能率よく組み立てられている」と感心していた。ハントレス博士は,「日本の宇宙科学の未来は非常に有望で,21世紀に入っても大いに協力を深めていきたいが,ロケットや組立室の充実度に比べて,建物の老朽化が激しいですね。マリリン・モンローが浮浪者の服を着ているみたいです。」と率直な感想を述べてKSCを後にした。
 なお,ハントレス博士からKSC所長の私に,ハッブル宇宙望遠鏡などの映像をはめ込んだパネルがプレゼントされた。

(的川泰宣)


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オリジン計画等に関する日米科学者会合について

 この会合は,昨年夏に行われたNASA長官ゴルディン氏と当時の宇宙開発委員会委員長中川氏との間で交わされたオリジン計画に関する日米協力の可能性についての話し合いに基づいて宇宙開発委員会が主催したもので,NASA宇宙科学局ハントレス長官および宇宙研西田所長を共同議長とし,1月28,29の両日,浜松町の貿易センタービルで開催されました。米国からハントレス長官以下16名,日本から関係する研究者約20名が参加しました。オリジン計画は米国が21世紀に向けた宇宙科学の中心的課題として進めようとしている研究の総称で,宇宙の起源,銀河系の起源,星の起源,惑星および生命の起源を解き明かしていく戦略として提起されています。この中で,赤外線による天体観測の推進と火星の生命探査を中心とした太陽系探査を大きな柱としています。日本もM-V,H-といった大きな打ち上げ打ち上げ能力を持ったロケットの実現を背景に火星,月,小惑星の探査,また,赤外線天文衛星の計画を進めつつあるところであり,このような会議を持つ良い時期であったと考えられます。日本側の出席者には,これまでの日本の宇宙科学との関わりが薄かった有機・無機の微量分析の専門家,微生物検出の専門家も出席し,日本の分析分野の実力を示すとともに,21世紀に向けた両国の研究の広がりを一層具体的なものとすることが出来ると思います。一方,米国側の発表を通して,長期戦略を具体的な戦略として実現して行こうとする米国の自信と力も強く感じられました。これから様々な形で両国の協力を強めていく上で日本の長期戦略とこれを実現していく実行力が今まで以上に必要となる時期に突入したという認識を一層強く持ちました。俗な表現をとれば「腹を据えてかかる時期」が来たなというのが全体の会議を通して私が抱いた感想です。

(鶴田浩一郎)

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IACGからの報告

宇宙科学研究所   的川 泰宣

 昨年の12月8日から3日間,フロリダ州ココアビーチのラディソン・リゾート・ホテルで,IACG( Inter-Agency Consultative Group for Space Science :宇宙科学関係機関連絡協議会 )が開催された。「関係機関」とは,NASA(米国航空宇宙局),ESA(ヨーロッパ宇宙機関),IKI(ロシア宇宙研究所),ISAS(宇宙科学研究所)の4つである。

 そもそもIACGとは,1985年から翌年にかけて76年ぶりでハレー彗星が太陽に接近した時,探査機を彗星に接近させるミッションを有する宇宙機関が,それらのミッションから最大限の効果を挙げるべく開始した定期的な連絡協議の場である。1981年にイタリアのパドヴァを皮切りに,4機関がローテーションを組んでホストを務めてきた。日本ではこれまでに鹿児島(1982),京都(1987),奈良(1991),札幌(1995)で開催している。ハレー彗星探査では,ヨーロッパが「ジオット」,ソ連が2機の「ヴェガ」,日本が「さきがけ」「すいせい」,アメリカが「アイス」と計6機が1986年の3月に一斉にハレーに接近して協力観測の実を挙げた。彗星の科学,ミッション構成の上での戦略的協力など,素晴らしい国際協力の成果に,ローマ法王パウロ2世も感動したものである。

 ハレー彗星が太陽系の彼方に去った後,折角の素敵な協力を止める手はないということになり,さりとて漫然たる連絡会では意味がないので,すべての機関が飛翔体ミッションを有する分野を選んで協力の柱を定め,宇宙科学分野の真に役立つ国際協力の定期協議にしようということになった。ハレーの次の協力の柱には太陽地球系科学が選ばれた。太陽から地球周辺までの空間,とくに太陽風と地球磁気圏の相互作用を,4機関の数多くの衛星ミッションの協力で徹底的に調べようという試みが開始された。昨年アリアン5型ロケットが運ぼうとしたESAの磁気圏編隊飛行衛星クラスターは残念ながら打上げ失敗に終わったが,4機関が計画した多くの関連衛星はほぼ出揃って,現在精力的に協力観測を開始しているところ。日本は「GEOTAIL」を先頭にして,「あけぼの」「ようこう」が大きな働きをしている。

 太陽地球系科学が協力の中心にすわった10年間は,この分野に関してワーキング・グループ(WG)が3つ設けられた。WG1は科学,WG2はデータ交換,WG3はミッション解析である。それに将来協力が予想される分野として,パネル(小委員会)が設置された。パネル1はスペースVLBI(電波天文学),パネル2は太陽系の惑星と小天体の科学,パネル3は天体物理学。この10年間,この3WG・3パネルの体制は非常に有効に機能してきたと言える。

IACG会議場風景  

 さて今回の会合では,一応ミッションが出揃って実行段階に入っている太陽地球系科学に代わる次の協力の柱を決定するという大切な課題があった。

 会議はNASAの宇宙科学局長ウェス・ハントレスの司会で始まった。最初に,各機関の現状と将来の見通しについての報告がなされた。ESAは,月探査のMOROも火星探査のマースネットも閣僚会議でつぶされて意気が上がらない。惑星探査は彗星サンプルリターンの「ロゼッタ」計画を軸に立て直しにかからざるを得ないようだ。ロシアは12月の火星ミッション「マルス96」の打上げ失敗にがっくり来ているようで、全体として元気がない。ISASはいつもと変わらず「GEOTAIL」「ようこう」「あすか」などの具体的な成果がたくさん出された。いつものIACGでは,この日本の成果が,抽象論議に陥るのを救う主役になってきたわけだが,今回一味違っていたのはNASAである。ハッブル宇宙望遠鏡の成果もしっかり報告したし,火星からの隕石に発見された「生命の痕跡」も丁寧に説明し,21世紀に展開しようとしているORIGIN計画も出席者の注目を集めた。ORIGIN計画は,宇宙の起源・銀河や星の起源・太陽系の起源・生命の起源等,あらゆる起源(ORIGIN)にまつわる宇宙科学への取り組みを強化するという計画で,赤外線天文学や惑星及びその生命探査に重点が置かれてくるだろうことを予想させる。久しぶりで意欲的な計画を持って,NASAは活気づいている。今後の宇宙科学は大なり小なり,このNASAのORIGIN計画の影響を受けざるをえなくなる。

 このような情勢を受けて,太陽地球系科学の次の協力のテーマは「惑星探査」に決定した。これまであったWGの体制も見直され,「WG1:惑星科学、WG2:データ・アーカイブ,WG3:太陽地球系科学」となった。それに天体物理学と太陽物理学がパネルとしてそれぞれ組織される。この新体制で取り組むこれからの1年の成果は,1997年のIACGで総括されるが,その会議はモスクワ近郊において,ロシアのホストで開かれることになった。

(まとがわ・やすのり)

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ISASニュース No.191 (無断転載不可)