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4.監視装置の動作状況

 位相比較及び時刻監視装置の動作状況を,以下に,例をもって示す.

4.1位相比較


 図5の写真は,位相差の時間変化をグラフ表示したCRT画面である.位相差を表す3本の曲線は,画面では,色分け(水色,黄,紫)してある.画面下部の三つの数値は,位相差の現在値である.画面右上には,アラン標準偏差の現在値(写真の場合,メーザ#1と#3の出力を100MHzにおいて比較.平均時間は1200秒)を示している.なお,画面右端の目盛りはここでは意味はない.



図5. 位相比較CRT画面

 位相差の時間変化を表すCRT画面は,1日1画面の割合で,プリンターに出力されている.図6および図7にプリンター記録の例を示す.図6(1999年12月19日の記録.図の中のStartと印した日時は一連の計測の開始時点を示しているもので,このグラフの開始時点ではない)では,位相差は24時間にわたって安定に推移しており,3台のメーザの動作は正常である.位相差の時間に関する直線的な変化は,2台のメーザ各々の周波数オフセットに起因しており,周波数変動成分ではない.位相差の時間に関する2次微分成分以上が周波数変動に相当する.図右上部の現在の安定度の数値は,グラフ終了時点におけるものである(#3メーザと#1メーザの比較,100MHz出力,平均時間1200秒).図7(開始時刻は1999年12月25日11時50分)は,位相差に正常でない変化が見られた場合で,図に見るように,時刻199h付近において,#3と#1の位相差,および,#3と#2の位相差に,不自然な折れ曲がりを生じている.一方,#1と#2の位 相差には,そのような変化は見られない.すなわち,メーザ#3の動作に,この時点において,何らかの短期的な異常を生じたことが,これらの位相比較から読みとれる.



図6. 位相差の時間変化-正常な場合の例


図7. 位相差の時間変化-一部に異常が見られる例

 周波数安定度の解析結果も,適宜選択の上,プリンターに出力している.図8はその一例で,図6と同じ1999年12月19日の記録紙である.#3メーザと#1メーザを100MHz出力において比較しており,600秒から86400秒に及ぶ8つの平均時間(τ=600,1200,1800,3600,7200,18000,61200,86400秒)に対するアラン標準偏差,位相差偏差,及び,相対周波数偏差を示してある.ここで,位相差偏差は,平均時間τの間の位相差変化幅の計測値を平均したもの(表のNoは計測データ個数),相対周波数偏差は,平均時間τの間の相対周波数変化幅を平均したもの(Noがデータ個数),である.また,表の中のそれぞれの記号表示に√2を含ませているが,これは,同一規格と見なせる基準器と供試器を用いて計測した場合に,供試器に関する当該諸量 は,測定値を√2で除したものとする,という基準 [6]に則っていることを示すためである.すなわち,表の数値は測定値そのものでなく,1台の水素メーザの性能を与えるものである.


図8. 周波数案定度、位相差偏差、および相対周波数偏差の測定例

 監視画面に関して,周波数安定度を時間に沿ってプロットした例を図9に示す.ここでは,2台のメーザ(#1と#2)に関して,位相差と,平均時間1200秒のアラン標準偏差,同じく平均時間1200秒の相対周波数偏差,の時間変化を約22時間にわたって測定している(図中の右上がりの直線が位相差,大きな振幅で揺らいでいる曲線がアラン標準偏差,ほぼ一定で細かい揺らぎの見られる線が相対周波数偏差).アラン標準偏差と相対周波数偏差は測定値を√2で除したもの,すなわち,1台当たりの当該値である.1200秒という平均時間のもとで,アラン標準偏差は,図に見るように,1×10-16から10-15台の範囲を30分程度の時間スケールで揺らぐ.右上の現在の安定度(<1.00000E-16と表示されている)は,図中の最終時刻のデータについてのものである.



図9. 周波数案定度、位相差、相対周波数偏差の時間変化を出力したCRT画面

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