レーザーによる血管内治療は、1980年代に動脈硬化病変の治療を目的に開発されました。 最初は、連続波発振(CW)によるArやNd:YAGレーザーでしたが、熱損傷が強く血管穿孔が高率に起きました。 それを克服するため、熱損傷による血管穿孔が少ないExcimerやHo:YAGレーザーなどのパルス波発振(PW)が 使われるようになりました。 これと同時期に皮膚科領域でも、熱緩和時間よりもかなり短いレーザー照射時間(パルス幅)で、 周囲の組織にダメージを与えず標的組織のみを破壊する「選択的光熱融解論」が提唱されました。 この理論の登場により、皮膚色素病変の治療に革命的な進歩がもたらされました。 一方、下肢静脈瘤の治療でも遅ればせながら、2001年にCWのダイオードレーザーによる血管内レーザー焼灼術(EVLA)が 開発されました。従来の外科手術と比べて患者の負担が少ないことから、次第に標準手術になりました。 しかし、依然として静脈穿孔による疼痛や出血、血栓症が問題として残りました。これに対して、ほとんどの企業は 波長を変える改良のみしか行っておらず、前述の先行分野よりもかなりの技術的遅れをとっているのが現況です。 私たちは、EVLAにおけるレーザー生体反応を選択的光熱融解論に基づいて議論し、PWによるNd:YAGレーザーの開発を 米国メーカーと進めてまいりました。マイクロ秒のパルス幅により過剰な熱損傷や血栓形成を防止し、数キロワットの 尖頭出力から生まれる衝撃波とキャビテーションにより静脈壁を効率的に焼灼する技術を開発しました。 本講演では、先行分野のレーザー治療の歴史を参考に、発展途上にある血管外科領域のレーザー治療の分野を如何に 切り開いてきたか、そしてその未来について今後の宇宙科学技術との連携への期待を込めてご紹介します。