「大気圏突入飛行体のエアデータセンサーの特性に関する研究」
研究申込者
鈴木 宏二郎 (東京大学)
研究要旨
次世代の大気突入システムとして,柔軟構造エアロシェルを利用した低弾道係数大気突入システムが提案
されている.これは,軽量かつ大面積を実現する柔軟構造体を大気突入機のエアロシェルとして利用するこ
とで,弾道係数を小さくし最大空力加熱を大幅に低減することができるシステムである.我々の研究グルー
プでは,インフレータブルトーラスで形状を維持する薄膜フレア型の柔軟エアロシェルに着目し,観測ロ
ケット実験に向けた研究開発を現在進めている.一方,機体の姿勢やマッハ数を知るためのエアデータセン
サーは,飛行安全性や空力データ取得のためには必須のシステムである.通常,複数点で圧力を測定し姿勢
やマッハ数に関する較正式を作成する.再突入飛行体の場合,1)極超音速から低亜音速までカバーすべき
マッハ数範囲が広いこと,2)大迎角を含む広範囲の姿勢をとること,3)空力加熱防御のため圧力孔の設置法
に制限があること,などの問題がある.鈍頭カプセル型飛行体についてエアデータセンサーの構成に関する
設計指針が得られれば,今後の飛行実験機開発に有用な知見をもたらすものと期待される.以上から,本風
洞実験では広範囲のマッハ数・姿勢角で模型頭部の壁面圧力を取得し,高精度かつ高信頼性のエアデータセ
ンサー構築の方針を得ることを目的とする.
図1に実験模型を示す.中心に半球状のカプセルを,またその周りに円錐フレア型のエアロシェルが取付
く.比較用に剛体模型(左)と柔軟模型(右)の2種類の模型を用いた.半球カプセルの表面5箇所のピッチ
方向に圧力孔を設けている.それぞれの間隔は淀み点に対して0deg,±30deg,±60degとした.マッハ数は
0.4から4.0まで,迎角および横滑角は-15degから+15deg,更に25deg曲がりスティングによる高迎角試験も
実施した.実験結果に関して,図2にマッハ数2.0におけるシュリーレン写真を示す.左が剛体模型,右が柔
軟模型である.両者を比較すると,柔軟模型は凹面状に変形しており,この変形が頭部の圧力分布に及ぼす
影響については現在解析中である.図3に,剛体模型の+30deg位置の孔と-30deg位置の孔の圧力差に関し
て,各マッハ数における迎角との関係を示す.また圧力差は淀み点圧力で無次元化している.マッハ数が増
大するにつれて傾きが急峻になっており,また全ての圧力差は線形に変化していることがわかる.したがっ
てマッハ数を算出することが出来れば,これらの孔同士の圧力差から迎角を判断することができると考えら
れる.また±60deg位置の孔については,迎角の増大につれて後方のエアロシェルの影響を受けることもわ
かった.横滑りスイープや柔軟模型に関する分析,エアロシェルの変形が頭部圧力分布に及ぼす影響等の把
握に関しては,現在引き続き解析中である.


Key words
エアデータセンサー,柔構造,大気突入
2010年度の研究成果
利用期間
2011年1月17日〜2011年1月28日