プラズマアクチュエータによる超音速キャビティ騒音の制御に関する研究(その4)

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研究申込者

藤井 孝藏 (ISAS/JAXA)

研究要旨

プラズマアクチュエータによる超音速キャビティ騒音の制御の可能性を探るため,昨年度に引き続き,高速気流総合実験設備を用いて実験を行った.実験に用いた模型の断面図と外観写真を図1に示す.模型内マッハ数は約1.83である.図2に示す通りキャビティ前方の角部にプラズマアクチュエータを取り付け,流れと垂直方向キャビティ外向きに誘起速度を発生させることで,超音速キャビティの音響特性を制御できるかどうかを調べることを目的に実験を行った. 昨年度実験で風洞通風中にプラズマアクチュエータが漏電してしまった事を踏まえて、今年度は前年度に比べ絶縁領域を約2倍に広げて実験を行った。本実験では、プラズマアクチュエータを放電する事によるキャビティ内の圧力変動の変化を観測するため,キャビティ背面に設置した非定常圧力センサで圧力を計測し、得られた時系列データに対しFFT解析を行い、放電時・非放電時の周波数特性を比較した.




Key words

流れ制御,プラズマアクチュエータ,キャビティ流れ



2010年度の研究成果

 本実験において、供給電圧周波数3kHz、ピークピーク値6kVでプラズマアクチュエータを作動させた。
まず、無風状態のキャビティ内でプラズマアクチュエータが正常に作動しているかを確認した。以下にその際の周波数解析の結果を示す。

 CH1、CH2ともに無風状態ではプラズマアクチュエータの作動周波数である3kHzに最大ピークがたち、 キャビティ内空気に確かに影響を与えている事がわかる。また図3から、漏電なくプラズマアクチュエータを作動させると ピーク周波数は基本周波数である3kHzの奇数倍に得られる事がわかる。
 次に、プラズマアクチュエータを作動させずに通風させた時の周波数解析を行った。

 CH1とCH2において約28kHzにいずれもピークがたつことから、 この周波数が通風時キャビティ内部全体に発生する支配的な周波数であると考えられる。また、CH1とCH2では20kHz以下におけるピークの位置が大きく異なり、これはセンサーの位置により主流からの影響やマッハ波反射の影響の具合が異なっており、 支配的な現象が異なっているためと考えられる。
 また、以下にプラズマアクチュエータを作動させた時の周波数強度を示す。

 昨年度の報告では28kHz付近のピークが消失してしまっていたが、今年度の結果ではピークを確認する事ができた。 昨年度の実験ではアクチュエータの漏電が問題となっており、漏電が起こった事によりアクチュエータ本来の影響よりも ノイズの強い影響がセンサに与えられてしまったため、28kHZ付近のピークが消失してしまったものと思われる。 図4と図5を比較すると、28kHz付近のピークはアクチュエータを作動させる事でおよそ半分のピーク値となっているが、 以下で述べるとおり、異なる通風ケースでは同じ条件であってもピーク値が大きく異なる事があったため、 一概にアクチュエータが有意な影響を与えたとは言えず、更なる調査が必要である。
 次にキャビティ全体で支配的と考えられる28kHz付近のピーク周波数に注目した。このピークの値は、アクチュエータを作動させない状態でも通風状態が異なるデータ間で一定した値を得る事ができなかったため、28kHz付近の最大ピーク周波数が条件の違いによりどの程度変動するかを比較した。以下にプラズマアクチュエータ作動状態・非作動状態における最大ピーク値を記す。値は同一通風中に3回測定したデータのピーク値を平均したものである。

 この結果より、キャビティ前方の角部にプラズマアクチュエータを取り付け, 流れと垂直方向キャビティ外向きに誘起速度を発生させても、キャビティ内部に発生する支配的な周波数に対し、 有意な変化をもたらさなかった事がわかる。
 この理由としてまず、今回使用したプラズマアクチュエータの動作環境が0.2〜0.3気圧程度と大気圧に比べ低圧であった事が考えられる。プラズマアクチュエータは、発生する電界により周囲の極性分子が電気力を受ける事で推力が発生すると考えられており、 低圧環境では電気力を受ける極性分子自体の数が減少していたため、大気圧中で得られる推力よりも 大幅に減少しているものと思われる。そのため,超音速キャビティ内流れを制御するには、 より効率的なプラズマアクチュエータの配置方法を考案する,もしくは,プラズマアクチュエータの発生させる誘起流速を 向上させる必要があると考えられる.プラズマアクチュエータの誘起速度を向上させるためには, 誘電体材質を今回用いたカプトンからテフロンなど電圧耐性の強い物に変え、 現在より更に高電圧で駆動させてプラズマ強度を上げる事が考えられる.
 また,今回絶縁領域を2倍にした事により昨年度の実験よりも漏電を起こしてしまう回数を減らす事ができた。プラズマアクチュエータの発生させるプラズマ領域は低圧下では大気圧下よりも大きくなる事が知られており、昨年度実験で漏電が多発したのは、通風中風洞内が低圧となりプラズマ領域が伸びる事を考慮に入れておらず、絶縁領域が不足していたためと考えられる。今後は,通風中は絶縁領域が広がることを考慮に入れて漏電対策をすることで,より効率的に実験を行うことが可能になると考えられる.



利用期間

2010年6月7日 〜 2010年6月18日

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