無重力実験機3号機BOV3-006ロール特性取得試験

Return to List

研究申込者

橋本 樹明 (ISAS/JAXA)

研究要旨

 これまで,文部科学省,日本学術振興会の助成を受けた科研費学術創成研究「高高度気球を用いた微小重力実験装置の開発」(Subject No. 16GS0220)において「無重力実験機(BOV)」の研究開発を行ってきた.本実験では気球により機体を高高度まで牽引し無重力落下させ,機体内部の真空チャンバ内に保持された無重力実験部が自由落下するよう機体を制御することで,機体内部の実験部に高品質の無重力環境を30秒以上実現するというものである.
 3号機では,BOV機上において実現される最大マッハ数2の超音速飛行環境を利用して,現在研究開発本部で開発中のサブスケール予冷ターボジェットエンジンの飛行実証を計画している.高高度では大気の影響が小さく,ガスジェットのみで機体の運動を制御することが可能であるが,動圧が高くなる低高度では機体に空力安定性と制御性が要求される.また,予冷ターボジェットエンジンの試験時間を延ばすべく低高度,すなわち動圧の高いところで機体の引き起こしを行う計画である.これらを実現するために,3号機では主翼の追加による機体の揚抗比の改善を行い,空力安定性と操舵性を改善させるための尾翼面積の増加など,空力設計の変更を行っている.科研費研究は平成20年度で終了したが,JAXA研究として引き続き研究を実施している.
 今年度の試験では,本試験は,前年度迄の風洞試験を反映して安定性を向上させた機体について縦横の安定性改善を検証し,かつ軌道計画に資する空力データベースを作成することを目的とする.実験機は空気吸込み式エンジンを機体外筒部に装着するため,縦・横・ロール特性は迎角非対称で非線形な特性を有する.またエンジン部位から発生する衝撃波と機体の干渉により生じる独特の干渉効果の解明は重要な課題となっている.特に本年度は,軌道計画上ロール制御を行うため,ロール特性と舵角による制御性・感度特性を取得することを目的とする.超音速飛行時の全可動尾翼によるロール制御は従来経験したことがない新しい課題である.
 試験では天秤による6分力取得とベース圧計測,およびシュリーレン動画記録,スチルカメラによる記録を行った.試験マッハ数は0.6から1.3(遷音速風洞による),及び1.5から2.0(超音速風洞による)について行い,縦横特性を取得するためにαスイープを,横特性を取得するためにα-γスイープを行なった.これに加え,操舵翼特性を取得するために,尾翼エレベータ角が0,±2°,±4°となる水平尾翼を交換して試験を行い,ロール,ピッチ,ヨーに関する舵角感度データも取得した.残念ながら風洞の不具合が発生し,また風洞復旧後は模型が損傷するなどにより,予定された通風の全てを完遂することができなかったが,必要最低限の空力データについて取得することが出来た.風洞スタッフのご尽力に感謝したい.



Key words

無重力実験機,空力データベース,飛行実証,翼胴形態



2009年度の研究成果

  1. Maru, Y., Sawai, S., Fujita, K., Bando, N., Kobayashi, H., Sakai, S., Hashimoto, T., and Kadooka, S., "Flight Trajectory Analysis of a Supersonic Flight Demonstrator for a Precooled Turbojet Engine," ISTS Paper 2009-g-14, 27th International Symposium on Space Technology and Science, Tsukuba International Congress Center, Tsukuba, Japan, June 2009.
  2. 石川毅彦, 橋本樹明, 澤井秀次郎, 斎藤芳隆, 稲富裕光, 坂井真一郎, 吉光徹雄, 坂東信尚, 小林弘明, 藤田和央, 丸祐介, 岡田純平, 上野一郎, 木皿吉昭, 福原良純, "大気球を利用した無重力燃焼実験−BOV#4結果と今後の計画−," 平成21年度 大気球シンポジウム, 宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究本部, 2009年10月.
  3. 丸祐介, 澤井秀次郎, 坂東信尚, 坂井真一郎, 小林弘明, 藤田和央, 橋本樹明, 小島孝之, 田口秀之, 本郷素行, 福家英之, 加藤洋一, 清水成人, 中塚潤一, "大気球を利用したスペースプレーン技術の超音速飛行実証機の開発," 平成21年度 大気球シンポジウム, 宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究本部, 2009年10月.
  4. 澤井秀次郎, 坂井真一郎, 坂東信尚, 丸祐介, 福家英之, 吉光徹雄, 橋本樹明, 中塚潤一, 清水成人, 鎌田幸男, 林山朋子, 藤田和央, 田口秀之, 小林弘明, 小島孝之, 本郷素行, 原田賢哉, スペースプレーン技術実証機WG, "気球無重力実験機を利用したスペースプレーン技術の超音速飛行実験," P2-140, 第10回宇宙科学シンポジウム, JAXA 宇宙科学研究本部, 神奈川県相模原市, 2010年1月.
  5. 小林弘明, 田口秀之, 小島孝之, 原田賢哉, 本郷素行, 藤田和央, 澤井秀次郎, 坂井真一郎, 坂東信尚, 丸祐介, 中塚潤一, 清水成人, スペースプレーン技術実証機WG, "予冷ターボジェットエンジンの開発研究とその超音速飛行実証計画," 第10回宇宙科学シンポジウム, JAXA 宇宙科学研究本部, 神奈川県相模原市, 2010年1月.
  6. 丸祐介, 澤井秀次郎, 後藤健, 大山聖, 峯杉賢治, 徳留真一郎, 小島孝之, 藤田和央, 田口秀之, 青木卓哉, 永田晴紀, 坪井伸幸, 姫野武洋, 土屋武司, スペースプレーン技術実証機WG, "スペースプレーン技術の極超音速飛行実証構想," 第10回宇宙科学シンポジウム, JAXA 宇宙科学研究本部, 神奈川県相模原市, 2010年1月.
  7. 丸 祐介, 澤井 秀次郎, 坂東 信尚, 坂井 真一郎, 小林 弘明, 藤田 和央, 田口 秀之, 小島 孝之, 本郷 素行, 福家 英之, 加藤 洋一, 清水 成人, 中塚 潤一, スペースプレーン技術実証機ワーキング・グループ, "スペースプレーン技術の大気球を利用した超音速飛行実証機の開発," STCP-2009-58, 平成21年度宇宙輸送シンポジウム, JAXA 宇宙科学研究本部, 神奈川県相模原市, 2010年1月.


利用期間

平成 21 年 6月 8 日 〜 平成 21 年 6月 19 日

Return to List