Nancy Grace Roman 宇宙望遠鏡で解き明かす銀河の形成進化
2026年2月26日 | 宇宙航空プロジェクト研究員, あいさすpeople
研究概要
銀河がどのように生まれ、どのように成長してきたのか。これは現代天文学における大きな課題のひとつです。銀河は宇宙の大規模構造の中で周囲の環境から影響を受け、その姿を変えてきました。私は、こうした銀河の棲む「環境」がいつ、どこで、どのように銀河形成・進化へ影響を与えたのかを理解するため、銀河団の形成初期段階に相当する原始銀河団(図1)の研究を進めています。現在の宇宙では、銀河団のような高密度環境に棲む銀河の多くは、すでに星形成活動を終えていることが広く知られています。しかし、銀河形成が最も活発だった遠方宇宙(およそ110億年前)では状況が大きく異なります。近年の観測では、原始銀河団に棲む銀河が同時代の一般的な領域に棲む銀河に比べて高い星形成活動を示す傾向が確認されています。このように星形成活動が環境に依存する背景に、どのような物理過程(ガスの供給メカニズム、銀河同士の相互作用など)が働いているのかを見極めることが非常に重要です。
銀河の成長を環境という視点から捉え、その物理過程を理解するためには、広い視野・高感度・高い空間分解能を兼ね備えた観測が不可欠です。原始銀河団の周囲にいる銀河の多くは、時間の経過とともに原始銀河団の重力で引き寄せられ、やがて銀河団の一部になっていくと考えられます。そこで重要となるのは、銀河が周囲の環境の影響を受け始めるのが、(原始)銀河団へ流れ込んだ後なのか、それとも流れ込む前の段階からなのか、という点です。これまでの原始銀河団観測は、銀河団中心部のみに限られており、原始銀河団の周囲に広がる構造や、将来銀河団へ流れ込むと考えられる銀河の全体像までは十分に捉えられていませんでした。そのため、宇宙の大規模構造の中で、いつ、どこで、どのように銀河が環境に影響されながら成長してきたのかを理解するためには、原始銀河団の中心部に加えて、将来的に銀河団のメンバーとなり得る周辺領域まで広く系統的に観測し、どの物理過程が銀河の進化を左右しているのかを検証する必要があります。さらに、環境に起因する物理過程を明らかにするためには、個々の銀河を空間分解した詳細な観測研究も重要となります。
この鍵を握るのが、2026年打上げ予定の Nancy Grace Roman 宇宙望遠鏡(以下 Roman)です(図2)。RomanはNASAの大型旗艦ミッションであり、日本(ISAS/JAXA)も国際パートナーとして計画に参画しています。Romanの観測は、Hubble 宇宙望遠鏡
Romanプロジェクトの主目的は、宇宙の加速膨張*2や宇宙構造の成長を高精度に測定し、その背後にあるダークエネルギー*3の正体に迫ることです。これらを目的として実施される広視野の撮像・分光サーベイの結果として、数億個規模の銀河を含む膨大な銀河分布データが得られます。また、太陽系外惑星を統計的に調べる観測や、コロナグラフ直接撮像装置(CGI) *4の高コントラスト観測技術を実証することも計画されています。CGIは、宇宙観測衛星で初めて能動的な波面制御*5の機能を本格的に搭載しており、次世代超大型宇宙望遠鏡による地球型惑星の直接撮像に向けた技術として期待されています。
このRomanが映し出すこれまでにない観測データは、5年間で20PBに達する膨大なデータとなります。このデータを確実に受信するため、JAXAでは長野県の美笹深宇宙探査用地上局にある54mアンテナへKa帯(26GHz)高速受信システムを新たに導入し、Romanの科学データ受信運用を行います。
この美笹深宇宙探査用地上局は、偶然にも私の地元にある施設です。国際的な宇宙観測を支える最前線のインフラが自分の地元に設置され、そこで Romanの科学を支える仕事ができることに、大きな喜びを感じています。私は、Romanのプロジェクト研究員として、Romanミッションの運用を推進する立場から、ミッション全体の成果最大化に貢献するとともに、その知識や経験を最大限に活用し、私自身の専門である銀河形成・進化研究も発展させていきたいと考えています。
用語解説
- *1 Hubble宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope; HST) : NASAが運用する紫外線から赤外線までの波長をカバーする口径2.4 mの宇宙望遠鏡で、高い空間分解能をもつ代表的な望遠鏡の一つ。
- *2 加速膨張 : 宇宙は今この瞬間も膨張し続けている。宇宙に物質が存在していると本来はその重力により膨張は減速してゆくはずだが、現在の宇宙においてその膨張の速度は時間とともに小さくなる(減速する)のではなく、むしろ大きくなって(加速して)おり、このことを加速膨張という。遠方の超新星などの観測から見いだされ、現在は複数の観測手法で支持されている。
- *3 ダークエネルギー : 現在の宇宙を満たしているエネルギーの約70%を占める正体不明の成分であり、宇宙の加速膨張をもたらしているとも考えられている。Romanの主目的のひとつは、広視野での超新星や銀河分布などの膨大な観測からその性質を間接的に調べることである。
- *4 コロナグラフ直接撮像装置(CGI; Coronagraph Instrument) : 明るい恒星の光を抑える工夫をこらすことによって、その近くにある暗い惑星などを直接観測するための装置。
- *5 波面制御 : 光学系のわずかな歪みや変化で乱れた光の波面を補正したり、光の分布や位相を能動的に変化させたりすることで、理想的なシャープな星像を維持しつつ焦点面における高いコントラストでの観測を可能にする技術。特に、非常に明るい恒星のすぐそばにある系外惑星のような微弱な天体を見分けるために必要不可欠である。Roman/CGI では、能動的な波面制御観測を宇宙で初めて実証することを目指しており、これは将来の地球型惑星の直接観測を行うミッションを実現するための重要な技術として位置づけられている。
- *6 James Webb 宇宙望遠鏡(JWST) : NASA・ESA・CSAが共同で運用する口径6.5 mの赤外線宇宙望遠鏡。JWSTは、これまでに建造された中で最も高性能かつ複雑な宇宙望遠鏡である。JWSTでは、近赤外線から中間赤外線の波長域の観測装置が搭載されており、銀河、星、惑星系など多様な天体の物理状態を従来よりも詳しく調べることができる。
大工原 一貴・宇宙物理学研究系