初期太陽系の進化史をリターンサンプルと隕石から読み解く

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和田 壮平・地球外物質研究グループ

この記事は宇宙科学研究所で活躍する「宇宙航空プロジェクト研究員」の研究を紹介しています。「宇宙航空プロジェクト研究員制度」は、JAXAプロジェクト等に参加することを通じて自己の研究を磨く若手研究者を対象とした人材育成制度で、宇宙科学研究所ではこの視点を強く意識した制度として運用が行われています。

研究概要

私が所属している地球外物質研究グループでは、「はやぶさ」、「はやぶさ2」、またNASAの「OSIRIS-REx」で、小惑星から持ち帰った試料 (リターンサンプル) を管理する惑星物質試料受け入れ設備「地球外試料キュレーションセンター」を運営しており、通称キュレーションと呼ばれています(https://curation.isas.jaxa.jp/about/)。貴重な試料を汚染しないよう高真空または窒素雰囲気クリーンチャンバを用いて、一粒一粒の試料について外観や重量などの基本情報の取得とデータベースへの登録を行い「地球外試料のカタログ」を作成しています。作成したカタログに基づき、国内外の研究者への試料配分も行っています。2026年度打上げが予定されている火星衛星探査計画「MMX」によって地球へ持ち帰られる試料もキュレーションで管理を行う予定です。さらに、キュレーションでは、リターンサンプルや保有している隕石試料を用いた太陽系物質科学に関する研究や、試料の分析法開発に関する研究も行っています。

私の専門は宇宙化学です。これまで「太陽系がどのようにして現在の姿へと進化したのか」に興味をもち、研究を行ってきました。その中でも特に、太陽系誕生後から惑星形成までの物質進化と、小惑星の表層進化、の2つのテーマに取り組んできました。1つ目のテーマでは、隕石に含まれているCAI(Ca-Al-rich Inclusion)という物質(図1)について研究を行いました。CAIは、45億6700万年前に原始太陽近傍の高温領域で形成されたと考えられている太陽系最古の物質です。そのため、CAIを調べることで、誕生したばかりの初期太陽系の環境を読み解くことができます。私は、二次イオン質量分析法*1という手法を用いて、CAIを構成する鉱物の酸素同位体組成と形成年代を測定しました。その結果、原始太陽系円盤*216Oに富むガスと16Oに乏しいガスが数十万年間共存していたことを実証し、円盤ガス環境の時間進化に制約を与えることに成功しました。2つ目のテーマでは、希ガスを多く含む隕石(ガスリッチ隕石)について研究を行いました。ガスリッチ隕石は、太陽風に由来する希ガスを多く含む隕石のことで、隕石の母天体に存在していたレゴリスが起源と考えられています。私は、このガスリッチ隕石中の太陽風由来の希ガスの分布を明らかにすることができれば、隕石の母天体の表層進化を解明できると考えました。しかし、太陽風の打ち込み深さ(100 nm以下)に対応した、ナノメートルスケールの空間分解能をもつ希ガスの局所分析法は存在していませんでした。そこで、私は、二次中性粒子質量分析法*3という手法を用いたヘリウム同位体イメージング法の開発を行い、自ら開発した手法を用いてガスリッチ隕石中の太陽風ヘリウム分布を可視化することに成功しました(図2)。

図1
(図1)Northwest Africa 8613隕石に含まれる太陽系最古の物質CAI(Wada et al. 2020 GCA. DOI: 10.1016/j.gca.2020.08.004)
図2
(図2)ガスリッチ隕石のひとつNorthwest Africa 801隕石中の太陽風ヘリウム分布 (Wada et al. 2026 MaPS. DOI: 10.1111/maps.70161)

現在私は、軟X線発光分光器(図3)という装置を用いて、CAIを構成する鉱物中のチタンの価数を分析するための手法開発を行っています。鉱物中のチタンの価数比は、形成時の酸化還元状態によって変化することが知られており、原始太陽系円盤の物理化学環境の重要なトレーサーです。リターンサンプルの分析により、CAIは隕石だけでなくリュウグウ、ベヌーのサンプルにも含まれていることが明らかになりました。しかし、その存在度は隕石に比べると低く、サイズも小さいことが明らかになりつつあります。そのため、リターンサンプルから初期太陽系の進化史を読み解くためには、微小領域から分析を行う局所分析法の開発が重要です。キュレーションに所属していることで、測定対象であるリターンサンプルや隕石試料が身近にあるメリットはとても大きく、関係者と情報共有を行ったりしながら効率的な開発を遂行できています。

図3
(図3)キュレーションに設置された軟X線発光分光器

用語解説

  • *1 二次イオン質量分析法 : 試料の表面にイオンビームを照射することでスパッタされた粒子のうち、イオン化した粒子(二次イオン)を質量分析計に導入し、質量分析することにより、試料表面の物質を分析する手法。
  • *2 原始太陽系円盤 : 太陽系の誕生時、生まれたばかりの太陽の周囲に形成されたガスと塵からなる円盤のこと。この中で太陽系惑星が形成されたと考えられている。
  • *3 二次中性粒子質量分析法 : 試料の表面にイオンビームを照射することでスパッタされた粒子のうち、イオン化していない粒子(中性粒子)を様々な方法でスパッタ後にイオン化(ポストイオン化)して質量分析計に導入し、質量分析することにより、試料表面の物質を分析する手法。本研究で用いた装置(LIMAS)では高強度レーザーパルスを照射することでポストイオン化を行っている。

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