LAPYUTAキー技術:紫外線用高反射ミラーの開発
2026年1月15日 | 宇宙航空プロジェクト研究員, あいさすpeople
研究概要
LAPYUTA(Life-environmentology, Astronomy, and PlanetarY Ultraviolet Telescope Assembly)は、宇宙での「生命生存可能環境」と「構造と物質の起源」の理解を目指す日本の高精度紫外線宇宙望遠鏡です。極端紫外線分光器を搭載した世界初の惑星観測用の宇宙望遠鏡である惑星分光観測衛星「ひさき」(2013-2023)の後継機として2018年ごろから計画がスタートし、2030年代の打上げを目指して開発を進めています(図1)。「ひさき」は長時間にわたり惑星を連続観測することで、これまで謎に包まれていた火星、金星、木星のガスの挙動を明らかにしました。特に木星に関しては、周囲を取り巻くガスについて理解が深まった結果、惑星本体だけでなく衛星との相互作用や衛星の活動に対する謎が新たに生まれました。そこで、LAPYUTAでは「ひさき」と比べ、感度と空間分解能を100倍に向上し、「ひさき」が残した謎の解明に挑みます。また、LAPYUTAではその性能を活かして、太陽系外惑星、銀河、中性子星合体*1、超新星爆発などの天文観測も計画しています。地球型系外惑星に地球類似大気があるかを明らかにすることはLAPYUTAのメイントピックの1つで、まさに宇宙における紫外線サイエンスの新時代を切り開く望遠鏡計画です。
私はLAPYUTAの高感度化に向けて、観測装置の中に配置されているミラーや回折格子*2の開発をしています。図2はLAPYUTAの断面図で、望遠鏡と観測装置のレイアウトを示しています。LAPYUTAは口径60cmの主鏡を持つ望遠鏡で、望遠鏡に入った天体の光は主鏡と副鏡で集光され、観測装置部分に入射します。観測装置部分は、中分散分光器、高分散分光器、UVスリットイメージャー、そしてファインガイドセンサー(図2の断面図の裏側にあります)で構成されています。それぞれの観測装置には、効率よく光を伝送・分光するために複数のミラーや回折格子を配置します。LAPYUTAの観測波長である110nm〜190nmの遠紫外線領域では、プリズムなどの透過型光学素子は使えないので、全てミラーのような反射型光学素子です。これまでの遠紫外線用ミラーの反射率は80%で非常に低く、これは3回ミラーに反射すると望遠鏡から入ってきた光の半分を損失することになります。つまり、高感度化のためにはミラーの反射率向上が大変重要です。遠紫外領域において反射率が高いアルミニウム(Al)を鏡の材料として使用し、研磨したガラス基板の上にAlを真空蒸着*3して作成します。しかし、Alは酸素と反応して急速に表面の酸化が進み、反射率が低下します。そこで、酸化を防止するためにAlの上に酸化防止コーティングを真空蒸着して、反射率の低下を防ぎます。私たちは、Alや酸化防止コーティングを真空蒸着する際の条件の最適化を目指し、様々な条件でミラーを作成して反射率を測定し、その結果を条件設定にフィードバックする方法で開発を進めました(図3左図)。ついに今年度夏の試作ミラーで反射率90%に到達し、LAPYUTAの総合効率を1.4倍に引き上げることにつながる重要な技術を獲得しました。次のステップは、この開発したコーティングをLAPYUTA搭載用のミラーや回折格子に適用することです(図3右図)。私の手元には、コーティング済みの回折格子がすでにたくさんあるので、ぜひ研究成果の続報を期待していてください。
LAPYUTAの高感度化に向けて開発しているこのコーティング技術は、NASAの2040年代に打上げを目指している宇宙望遠鏡HWO(Habitable Worlds Observatory)のミラー開発にもつながります。HWOは口径6m級の宇宙望遠鏡で、紫外線から近赤外線にわたる波長域で観測を行う超大型宇宙望遠鏡計画です。この計画のメイントピックは生命居住可能な範囲にある地球類似惑星の直接観測です。地球外生命体の存在を示すシグナルを発見する日もそう遠くない未来かもしれませんね。日本からもHWOに搭載する観測装置の提供を目指して、現在装置の概念検討や要素開発を進めています。
今回ご紹介したLAPYUTAやHWOはどちらも2030年代以降の打上げを目指した計画です。長い時間のかかる宇宙望遠鏡開発には色々なフェーズがあるので、どこから参加しても決して遅くありません。ご興味ある方はぜひ開発チームに加わっていただき、一緒に開発を進めていきましょう!
用語解説
- *1 中性子星合体 : 重い恒星は進化の最終段階で超新星爆発を起こす。その残骸として中心にできる高密度星が中性子星であり、それらの合体のこと。
- *2 回折格子 : 光を波長ごとに分離する光学素子
- *3 真空蒸着 : 真空状態で金属などの物質を蒸発させ、気化した物質を基板の表面に堆積させて薄い膜を形成する技術。
榎木谷 海・太陽系科学研究系