ソフトウェア開発から宇宙へ。全天X線監視装置MAXIの研究で受賞!
~芝浦工業大学大学院電気電子情報工学専攻賞、受賞インタビュー:鳥海 陽与氏~
2026年5月22日 | あいさすpeople
鳥海 陽与氏(芝浦工業大学大学院理工学研究科電気電子情報工学専攻 修士2年(2026年3月時点))が、「国際宇宙ステーションに搭載された全天X線監視装置MAXIの姿勢決定精度と速報性の向上―ISS構造的歪みから受ける影響調査と観測データのリアルタイム更新システムの開発―」というタイトルの修士論文を執筆し、電気電子情報工学専攻賞を受賞しました。この賞は、芝浦工業大学が学業成績に優れた修了生に授与する賞であり、各専攻からの推薦を受けて、大学院理工学研究科が選考・決定するものです。本インタビューでは、受賞対象となった研究の概要や今後の展望について、お伺いしました。
受賞された修士論文がどのような研究かを教えてください。
私は修士論文の中で、国際宇宙ステーション(ISS)の「きぼう」日本実験棟にある船外実験プラットフォームに搭載されている、全天X線監視装置MAXI*1について2つの研究に取り組みました。
1つ目は、MAXIの姿勢決定精度に関する研究です。MAXIは、ISSに乗って地球を約90分おきに周回し、宇宙全体を観測しています。観測を行うときは、MAXIがどの方向を観測しているのか、つまり姿勢の情報がとても大切です。ISSシステムは、常に姿勢情報を取得し、他の観測装置に情報配信を行っていますが、MAXIはこれに加えて独自のセンサを備えており、高精度な姿勢測定を行っていました。2018年にMAXIの姿勢系の一部が故障したため、以降はISSから配信される姿勢を元にMAXIの姿勢測定を行っています。よって、今回の研究では、解析期間を2010年~2017年の8年間としています。
ISS機体が力を加えても変形しない完全剛体であれば、MAXIが決定した姿勢とISSシステムから配信される姿勢は完全に一致するはずです。しかし実際には少しずれており、そのずれの大きさは時間変動していることが補正をする際の問題として知られていました。そこで、姿勢差の大きさはどのようなタイムスケールで変動するのか、また姿勢差はどんな要因によって生まれるのかを定量的に解析・考察しました。
図1は、本研究におけるISS機体と座標軸の定義を示しています。X軸がISSの進行方向、Z軸が地球中心方向となっています。図2は、時間の流れと共に変化する姿勢の差を示しています。Z軸方向が特に顕著ですが、姿勢差の大きさが小さくなったり大きくなったりを繰り返していることが見て取れます。さらに解析した結果、姿勢の差はX軸方向とZ軸方向は約60日周期で変動し、振幅は約0.1°~0.15°であることがわかりました。この振幅は、ISSおよびMAXIそれぞれの姿勢決定精度の値よりも大きいことから、単なる測定誤差ではなく、ISSの構造変形など何らかの外的要因に起因していると考えられます。
ではなぜ約60日で変動するのか。私は太陽の当たり方が関係しているのではないかと仮説を立てました。なぜなら、X線天文衛星「すざく」*2など、複数の大型観測機器で太陽による位置ずれが報告されており、それより大きいISSでも同様に、太陽が姿勢差変動にかかわっているのではないかと考えたからです。そこで、太陽照射条件と姿勢差の相関関係について、太陽ベータ角*3という指標から分析を行いました。
その結果、図3の通り、XとZ軸まわりは、太陽ベータ角と姿勢差はある程度連動していることが明らかになりました。本研究により、ISSシステムから配信されるデータを使用した場合、太陽ベータ角の値を補正項とすることによって、これまでより数倍程度MAXIの姿勢決定精度が向上する可能性があると結論づけることができました。
2つ目の研究もMAXIについてとお伺いしましたが、どのような内容ですか?
2つ目の研究では、MAXIから得られた観測データを有効活用するための自動処理システム(MRLC: MAXI Real-time automated Light Curve generation)の開発を行いました(図4)。現状、MAXIには突然輝き出す突発天体を知らせてくれるアラートシステム*4があるのですが、その時にどのような現象があったのかを調べるためのデータ解析は、手動のオンデマンドツールを使うか、6時間ごとにモニター結果を更新する自動ツールの更新を待つ必要がありました。そこで、MAXIから取得したデータを最速で解析し、結果を出してくれるような自動処理システムを開発することにしました。システムの開発にあたり、6つの要件を決め、これらをすべて満たせるようにデータの取捨選択やソフトウェアの設計を行いました(表1)。大学学部時代はデザイン工学部に在籍していたため、UI/UX(ユーザインターフェース/ユーザエクスペリエンス)にこだわったソフトウェアを作成しなければという強い思いで開発を進めました。結果的に、直感的な操作ができるようなツールができたと思います。本システムは、2026年度中に、JAXA宇宙科学研究所のデータアーカイブであるDARTS*5から一般公開することを目指しています。
どのようなところに苦労されましたか?
MAXIのリアルタイムデータが持つ特性への対応に苦労しました。MAXIは、観測したデータをどんどん地上に送ってくれるところが大きな特徴の1つです。降りてきたばかりのデータは、所々抜けがあるのですが、少し時間が経つと徐々に補完されて完全なデータになります。MRLCシステムでは、データ解析ツールとしてmxpipeline*6を利用しています。mxpipelineを流すために必要なデータが抜けていると解析ができないので、綺麗に揃っているデータのみを自動で選択する処理が大変でした。またMAXIデータの中でも、実際に解析に使うデータは限られているので、全データを送り続けると処理が重くなり、ソフトウェア全体として動きが悪くなってしまいます。解析にかかる時間をできるだけ短縮し効率化したいという思いと、少しでも最新のデータを解析に回したいという兼ね合いで、データの取捨選択がとても大変でした。その中でも一番苦労したのは、mxpipelineのデバッグ処理です。開発されたばかりのツールのため、私が上手くいくだろうと思ってmxpipelineにデータを読み込ませても、エラーが出て、そのエラーの原因が全く分からないという状況が苦しかったですね。結果的にはmxpipeline開発チームのお役に立てたと思いますので、良かったです。
どのような経緯で宇宙にかかわる研究をすることになったのでしょうか??
宇宙には小さい頃から親近感を抱いていました。空を見るのがずっと好きで、夜空に星がキラキラしているのを見て、「夜になると空を超えて宇宙が見えるんだなあ」と思ったのがきっかけだったと思います。学部3年生の時、SNSでNASAの短期プログラム(Global Education Program in NASA)を見つけて参加し、チームで火薬ロケットを開発したり、水中で無重力体験をしたりしているうちに、「やっぱり宇宙いいな!」と心惹かれました。4年生になって卒業研究の題材を決めるにあたり、宇宙を題材に研究したいと思ったのが宇宙の研究を始めたきっかけです。三鷹にある国立天文台に、すばる望遠鏡で得られた観測データの可視化ツール(hscMap*7)を開発している方がおり、当時すごく興味を持ちました。私も開発に関わりたいとご連絡したところ快く承諾してくださったため、国立天文台でhscMapの拡張に関わりながら卒業研究を行うことができました。大学院では、芝浦のモーションコントロール研究室に配属されました。引き続き宇宙を題材にしたいと思い、姿勢制御に関係のありそうな方をインターネットで検索していたら、宇宙科学研究所の海老沢研先生が書かれたQuaternion*8に関する講義ノートを見つけました。その講義ノートがわかりやすくて、面白そうだなと興味を持ったので、作成者の海老沢先生に「お会いしたいです!」とメールを送ったら、お会いできることになって。海老沢先生や科学衛星運用・データ利用ユニット(C-SODA)の中平聡志さんたちと相談を重ねた結果、宇宙を題材にしながら、姿勢制御やソフトウェアのような工学部ならではのテーマをやってみようということになりました。このような経緯で宇宙研にて研究を行うことになり、受諾指導学生という制度を利用して海老沢研究室に受け入れていただくことになりました。
こうして振り返ると、本当に周囲の人々に恵まれていたと感じます。天文台や宇宙研で私を受け入れてくださった先生方はもちろん、快く送り出してくださった芝浦の先生方や、研究室の方々など、たくさんの人々に支えられていたからこそ、いい研究ができたのだと思います。私もいつか、誰かにとっての恵みになれるよう、精進したいです。
将来の夢や今後の目標を教えてください!
私は1つの大きな目標に向けてずっと走り続けるより、楽しそうなことや興味があることを見つけたら、その都度それに向かってジグザグ進んでいくような生き方をしてきました。今後も私と世界が楽しく過ごせる未来が訪れたらと願っています。
職業に限らなければ、将来は旅人になりたいです。世界中の素晴らしい空と景色をいっぱい見て、美味しいご飯をたくさん食べて、世界一周と言わず二、三周したいと思っています。
近い将来の目標でいうと、修士論文の研究で達成できたのはMRLCシステムのプロトタイプ版を作るところまでだったので、ここから半年くらいかけて、宇宙科学研究所のDARTSから一般公開できるようにお手伝いしたいと思っています。本システムは解析結果を誰でもすぐに自動で表示することができます。ユーザが行うのは天体と期間を選ぶことくらいなので、研究者の方はもちろん、宇宙に少し興味を持ち始めて、実際の観測データがどうなっているのか見てみたいという方にも、使ってもらえたら嬉しいなと思っています。
本日は貴重なお話をありがとうございました!鳥海さんの益々のご活躍を楽しみにしています。
用語解説
- *1 全天X線監視装置MAXI:世界最大の広視野X線カメラでX線天体を監視することができる装置。多くの監視装置は一つの星を集中的に見続けているが、MAXIはISSに搭載されているため約90分おきに宇宙全体を観測することができる。突発的な天体現象を発見することができ、10分~15分間隔で地球にデータを送っている。
- *2 X線天文衛星「すざく」:日米国際協力により製作が進められ、遠距離にある天体のX線観測、宇宙の高温プラズマのX線分光観測を行うX線天文衛星。2015年8月の運用停止まで、約10年にわたる科学観測運用を行い、世界最高レベルの感度を達成するなど優れた観測能力を実証し、重要な科学的成果を上げた。
- *3 太陽ベータ角:ISSの軌道面から見た太陽方向の角度。太陽ベータ角の絶対値が大きいときは、軌道面が太陽に対して強く傾いている状態を意味する。
- *4 MAXIのアラートシステム:MAXIのデータを用いてX線で突然輝き出す突発天体を検出するシステム。X線新星やガンマ線バーストが観測されると、インターネットを通じて世界中の天文台や天文学者などに通報される。観測から情報の発信までに要する時間は30秒以下。
- *5 DARTS:JAXA宇宙科学研究所 科学衛星運用・データ利用ユニット(C-SODA)が開発・運用を行っているデータアーカイブ。
- *6 mxpipeline:エムエックスパイプライン。海老沢先生をはじめとするC-SODAのMAXIチームがNASAと共同で新しく作成した解析基盤。2025年の10月にNASAからリリースされた。
- *7 hscMap:すばる望遠鏡から得られたデータの可視化ツール。誰でも直感的に操作できるインタフェースが特徴で、国立天文台天文データセンターが開発。https://prc.nao.ac.jp/citizen-science/hscv/index.html
- *8 Quaternion:クォータニオン(四元数)は、三次元空間での「向き」や「回転」を安定して表すための数学的表現で、飛行機や人工衛星、ロボットなどの姿勢計算に広く用いられている。