構造物としての折り紙の可能性を広げたい!新しい3D造形・再現技術を目指す優秀賞を受賞
~4DFF2025 優秀賞、受賞インタビュー:植田大樹氏~
2026年3月17日 | あいさすpeople
植田 大樹氏(早稲田大学 創造理工学部 総合機械工学科/学部4年)が2025年10月23日~24日に京都工芸繊維大学で開催されたConference on 4D and Functional Fabrication 2025(4DFF2025)にて、「折り紙に基づくメカニカルメタマテリアルが示す剛性の方向依存性」のテーマで口頭発表を行い、優秀賞を受賞しました。4DFF2025は一般社団法人日本画像学会内の研究グループ組織である4DFF研究会が主催する「これまでの3D造形・再現技術を超えていく新しい価値創造を目指した研究・開発」の成果を発表する学会です。
植田さんは、2025年4月からJAXAの学生実習制度「技術習得方式」*1を活用して、宇宙科学研究所(宇宙研)にて技術指導を受けており、受賞対象となった研究には宇宙研で学んだノウハウが活かされています。本インタビューでは、受賞対象となった研究の概要や宇宙研における技術指導について、伺いました。
この度は4DFF2025 優秀賞の受賞、おめでとうございます!受賞の感想を教えてください。
ありがとうございます。授賞式でスクリーンに映し出された受賞者の中に自分の名前を見つけた時は、まさか受賞しているとは思っていなかったので、とても驚きました。今まで人前で発表をする経験があまりなかったので非常に緊張していたのですが、人生初の学会発表で受賞をすることができて、とても嬉しく思っています。質疑応答では鋭い難しい質問もありましたが、なんとか応えることができましたし、自分の伝えたいことは全て出し切れたので良かったです。4DFF研究会に参加して、他の学生と知り合いになって活発に意見交換ができたことも非常に良かったです。次に参加するシンポジウムでも発表を予定しているので、そこでも色々な方と交流ができたらと思っています。
受賞テーマ「折り紙に基づくメカニカルメタマテリアルが示す剛性の方向依存性」について、教えてください。
折り紙構造は、繰り返し単位であるユニットセルの幾何形状を調整することによって、大きく展開したり小さく圧縮したりと、色々な形に変形ができる、あまり自然界には発現しない特徴を持つ材料(メカニカルメタマテリアル)の1つです。
折り紙構造に関する様々な論文を読む中で、その機械的性質(物理的な力に対する材料の性質)にはものすごく幅があることや可変的な部分があることが分かったので、そういった特徴をより明確にしたいというモチベーションのもと、今回は機械的性質の1つである剛性(外部からの力に対しての構造の変形のしにくさを表す性質)に注目して研究に着手しました。本研究では、ミウラ折り*2を発展させたTachi-Miura Polyhedron(TMP)というユニットセルを組み合わせることで三次元的に空間を充填できる特性を持つ折り紙構造に着目して、TMPの剛性*3の分布が力を加える方向によって変わるのか、また、形が変わるとどのように変化するのかについて、360度方向から調べました。
調査方法としては、コンピュータ上で細かくシミュレーションをして、その結果を座標変換することで構造の全方向に対してどういった剛性があるかを調べる方法と、TMPを単純なパネルとヒンジからなるモデルに落とし込むことで剛性を理論的に定式化し、その結果を1つ目の方法で得た結果と比較するという2つのアプローチで研究をしました。
少し専門的な話になりますが、調査の結果、折り紙構造(TMP)は形が変わることに伴い、剛性の分布も大きく変わるという異方性(空間上の方向によって異なる性質)を示すことが分かり、また、等方性(空間上の全ての方向で均一な性質)を示すパラメータ(設定値、変数)も見つけることができました。これらの結果から、例えばx軸方向の剛性は高くしてy軸方向とz軸方向には低くするというように、適切なパラメータを設定して方向に対する剛性を制御することで、軽量化だけでなく、目的に応じた最適な構造を設計できる可能性を示すことができました。次の図は、TMPをマクロな視点で材料と見立てたときのヤング率(材料が引張や圧縮に対してどれだけ変形しにくいかを表す指標)の異方性を可視化したもので、ある形状におけるヤング率を、その形状での最大値で割った値を表示しています。図中の(a)、 (b)、 (c)はそれぞれ剛性がx、 y、 z軸方向に高いときの異方性の様子を示しています。
今回の研究で明らかにした折り紙構造の剛性分布の特性は、航空宇宙に限らず、様々な分野で応用できるのではないかと考えています。私自身もまだ検討しきれていないのですが、例えばランニングシューズを作る際に負荷がかかる部分に折り紙構造のクッションを組み合わせたら、足の負担を軽減させることや走りやすさを向上させることができるかもしれません。色々な活用先が考えられると思います。
折り紙の研究はどういった経緯で始めたのでしょうか?
私の所属する早稲田大学の石村康生先生(早稲田大学 理工学術院 創造理工学部 総合機械工学科/教授)の研究室の研究テーマでは、折り紙工学を用いた宇宙構造物の他に、宇宙探査機の着陸脚の研究にも惹かれていたので、どちらを選択しようか迷っていました。そんな中、卒業論文が始まる大学4年生のタイミングでJAXAの学生実習制度の技術習得方式を利用して宇宙研の峯杉賢治先生(宇宙科学研究所 宇宙飛翔工学研究系/教授)の研究室に来る機会を得て、峯杉先生や安田博実先生*4(宇宙科学研究所 宇宙飛翔工学研究系/助教)から折り紙工学について指導をしていただけることになりました。指導の過程では、私たちが一般的にイメージする折り鶴のような折り紙とは全く違う、構造物としての折り紙について詳しく知ることができ、折り目のパターンの面白さや1つの折り目のパターンからものすごく大きなものを作れるところに魅力を感じて、石村研での卒業論文のテーマを折り紙の研究に決めました。
JAXAの学生実習制度(技術習得方式)はどのようにして知りましたか?また、宇宙科学研究所で技術指導を受けての感想を教えてください。
制度については、石村先生から教えていただきました。石村先生は2018年まで宇宙科学研究所 宇宙飛翔工学研究系の准教授として在籍されており、大学院生時代は宇宙研で学ばれていたとのことです。石村研の学生は学生実習制度を利用して、私以外にも数名が宇宙研で技術指導を受けています。
実際に参加した感想としては、率直にすごくレベルが高く、技術として学ぶことのできる幅も広いと思いました。私の場合は、週に2~3日程度宇宙研に通って技術指導を受けているのですが、研究室がこれまでに取り組まれてきた解析手法を学ばせていただいたり、長い期間をかけて開発してきたものに触れさせていただいたりと、なかなか大学の研究室だけではできないような貴重な経験をさせていただいています。
植田さんは、どのようなきっかけで現在の進路に進まれたのでしょうか?
昔から漠然と航空や宇宙はかっこいいと思っていて、特に航空の分野に関しては飛行機が好きでパイロットを目指していた時期もありました。そこから転じて、大学のサークル活動では鳥人間コンテストの人力プロペラ部門にパイロットとして出場しています*5。パイロットとして情熱的に取り組む一方で、飛行機を作るというものづくりのサークルでもあったので、機体を作る上での構造や強度などにもすごく興味がありました。そういった背景もあって、宇宙研に足を運んで学ぶ機会があるという話をいただいた際はぜひ参加したいと思いましたし、そこで得たものを大学に持ち帰り、今回の折り紙の構造物としての強度に関する研究に取り組むことに繋がったように思います。
現時点での進路や今後の展望を教えてください。
直近の進路としては、大学院に進んで折り紙に絡めた研究を続けたいと考えています。その先については、現時点では就職を考えているのですが、やはりずっと好きな航空宇宙の分野に関わることができると嬉しいです。航空宇宙に関わらずとも、構造物が好きなので、何か大きなものを作るプロジェクトに関われたらいいなと思っています。今後の展望としては、折り紙構造というものがもっと世の中に知られてほしいという思いがあるので、現在私が取り組んでいる研究を発展させることで広めていけたらと思っています。3Dプリンタ等の技術も発達してきているので、そういったものと掛け合わせて、もっと応用先が生まれて、色々な場所で活用されてほしいです。
本日は貴重なお話をありがとうございました!今後の植田さんの益々のご活躍を楽しみにしています。
用語解説
- *1 JAXAの学生実習制度「技術習得方式」:https://www.jaxa.jp/edu_j.html
「技術習得方式」は、大学等の要請に基づき、JAXAの技術、知見等を、学生が習得できるよう、JAXAに受入れて指導する制度です。(JAXAの知見とは、機構が現に保有する研究開発に関連する知識・知見等の成果又は研究開発に関連する設計、製作、試験、実験、解析、評価等の手法・技法)。 - *2 ミウラ折り:https://www.miuraori.biz/about/
東京大学宇宙航空研究所、文部科学省宇宙科学研究所で宇宙構造工学を研究され、宇宙科学研究所の名誉教授である三浦公亮先生により考案された、折り畳み方。 - *3:折り紙構造における剛性は、折り目のヒンジ剛性に由来するもので、方向によって変形のしにくさが異なり、これにより剛性が方向によって異なる。植田さんの研究では、幾何学的なパラメータ(折り目の長さや折り角など)を変えることで、変形の仕方も変化するため、どのような剛性分布が見られるかを研究した。
- *4:安田博実先生の研究に関する記事も、あいさすGATEにて掲載中:機械的メタマテリアルって何ですか?|あいさすpeople
- *5:鳥人間コンテスト 第46回大会(2024年)の人力プロペラ機部門に早稲田大学宇宙航空研究会 WASAのパイロットとして出場し、約15.6㎞の記録で準優勝されています。