軽金属の分野における幅広い貢献で受賞!それまでの考え方に疑問を持つことが、新しい発見の入り口に
~第29回軽金属学会賞、受賞インタビュー:佐藤英一教授~

佐藤英一氏(宇宙科学研究所 宇宙飛翔工学研究系/教授)が、第29回軽金属学会賞を受賞しました。軽金属学会賞は、軽金属に関する学理又は技術の進歩発展に顕著な貢献をした者に軽金属学会から贈られます。佐藤教授は、軽金属の基礎的・応用的な研究活動と併せて、軽金属学会の学会誌の編集活動等にも貢献され、現在は同学会の理事を務められています。宇宙科学の分野においては、JAXA発足以前から宇宙科学研究所(宇宙研)にて宇宙飛翔体の構造に使われる材料の研究開発に従事され、2019年12月から2025年3月まで、宇宙科学プログラムディレクタとして宇宙研のプロジェクトを統括する立場も経験されました。本インタビューでは、受賞対象となった研究内容や宇宙研での活動について、伺いました。

佐藤英一氏

この度は軽金属学会賞の受賞、おめでとうございます。ご研究の内容について教えてください。

今回受賞対象となった研究内容は、宇宙科学プロジェクトからは少し離れて、アルミニウムやチタン、マグネシウム等の軽金属材料の基礎的な研究に関するものです。金属には、温度を上げると軟らかくなって簡単に変形ができるという利点と、高温で実際に使うときには弱くなっているという両面があります。金属の温度が上がった時にどのような挙動をするかというのは、金属材料の分野の大きなテーマの一つです。金属は原子が並んだ結晶が集まって形作られていますが、金属結晶は転位(原子の並びにできる、しわのようなもの)が動くことで簡単に変形してしまうため、一般的には様々な障害物を入れた合金にすることで動かないようにします。金属の強度は転位がこの障害物を乗り越える力で決まっていて、金属の温度が上がり、熱振動や拡散を起こして障害物を乗り越えるまでは強度が出るようになります。障害物を入れて強度を上げると、その場所は変形しないのに、その周りが変形する現象(不均一変形)が必ず起きてしまいます。私はこの不均一変形に関する一連の問題について研究をしています。

研究活動の中で、印象に残っていることを教えてください。

不均一変形をどのように考えるかという研究は、私が助手になった頃に始めました。この問題について、当時は障害物の廻りの転位の動き方を考えることが一般的でしたが、私はこの考えに反して、もう一歩広く、材料全体でどのような不均一な応力分布ができているかに着目すべきと考えて研究に取り組みました。その結果、解析だけでなく実験等を通して障害物廻りの不均一な応力場とひずみ、すなわち変形の緩和機構の発現を実証し、新しい理解を示すことができました。

ちょうどこの頃、当時一般的と言われていた考えと私の考えに関する話題で、金属分野の権威である森勉先生(東京科学大学名誉教授)に食ってかかって、学会の席上でも何度も面と向かってやり取りをしたのが非常に面白かったのでよく覚えています。今となっては、よく若造だった私の相手をしてくださったなと思います。私の説がいくつか論文化した後、森先生から直接お言葉をいただくことはありませんでしたが、森先生のお弟子さん達からは賞賛の声をいただきました。
今までの考え方を再度見直し、疑問を持つことで、実験等を通して新たな発見があったり、今までよく分かっていなかったことが何となくすっきり分かるようになったり、そういったところに研究の楽しさを感じます。

宇宙に関する研究についても、教えてください。

ロケットや衛星等の宇宙飛翔体の構造に使われる材料に関する研究をしています。宇宙飛翔体は、超高温や極低温といった一般的ではない条件の下で使われるため、想定される条件になった時に問題がないか、あるいはどのように使わなければいけないかといったことを調べています。

最近では、セラミックスとチタンの接合スラスタの研究開発に取り組んでいます。宇宙飛翔体のエンジンで最も重視される性能は燃費です。一般的に、エンジンで燃える燃焼ガスの温度が高ければ高いほど、そしてノズルの出口面積が大きければ大きいほど、エンジンの効率は上がり、少ない燃料で済むことになります。従って、エンジンは耐熱温度が高い部材で作り、ノズルは大きく長く作ることが要求されます。最近の宇宙研の衛星用のスラスタは高温耐性のあるセラミックスで作られていますが、スラスタの下部に付けるノズルは比較的低温な場所なので、構造的にはチタンで作ることが理想的です。その場合、セラミックスとチタンを接合する必要がありますが、セラミックスと金属はそもそも付きにくいですし、熱膨張率が全く違うため高温で接合したものが低温になると熱ひずみ*1で割れてしまいます。そこで、不均一なひずみを緩和する構造を間に入れるなどしてセラミックスとチタンを接合する技術の開発を進めています。我々の分野では、こういった使う場所に応じて適切な材料を組み合わせて一つの部材にすることで、単一素材で作るよりも優れたもの作ることをマルチマテリアルと言っています。セラミックスとチタンの接合スラスタは、その一つの典型です。

今後、軽金属の分野はどのように発展していくのでしょうか?

今一番の話題は、3Dプリンタによる積層造形です。現在は金属やセラミックスによる積層造形も可能になってきていて、小型月着陸実証機SLIMの着陸時の衝撃吸収材でも使われています。この技術が進むと、金属を加工するための金型(かながた)は不要になりますし、溶接して組み立てる作業も必要なくなるため、さまざまな面で期待されています。使用できる金属も増えているので、今後は造形する中で材料を切り替えてマルチマテリアルができるようになっていくのではないかと思います。セラミックスで作って、チタンで作って、アルミで作って、最後はポリマーにしてといった形で、色々な材料で一気に作ることができたらすごく面白いと思います。

宇宙研の仕事の中で印象に残っているものについて、教えてください。

インタビューの様子1

2000年のM-Vロケット4号機の打上げ失敗の原因究明の仕事です。原因は、第1段ロケットのノズルスロート部(ノズルの最も狭い部分)に使われていたグラファイト材の欠陥による破損でしたが、グラファイト部材がどの程度の負荷に耐えることができるかといった詳細な解析や非破壊検査(対象物を壊すことなく、製品の健全性を検査する技術)が十分に行われていなかったことが問題でした。その当時、宇宙研に非破壊検査の経験者は私も含め誰もいませんでしたが、この問題を解決しなければ固体ロケットの打上げが厳しくなってしまうので、とにかく取り組まなければという状況でした。初めて経験する仕事ではありましたが、企業の方々と協力して検査方法の開発を行い、無事に検査ができてフライトモデルを送り出して打上げは成功しました。ここで確立した検査方法や手順は最終的にJISやISOの規格にしっかりまとめることもできて、とてもやりがいのある仕事でした。

宇宙科学プログラムディレクタを務められた時のことを教えてください。

私の研究分野にいると、衛星の不具合や新しい材料に関する相談を受けることは多いのですが、一つのプロジェクトにずっと携わるといったことはあまりなく、プロジェクトの方々を少し羨ましく思っていた部分があったので、プログラムディレクタとして色々な話ができたのは、非常に楽しかったです。

一方で、プログラムディレクタとして一番手を尽くしたことと言えば、プロジェクトにやりたいことを詰め込みすぎないよう、ブレーキをかけることでした。宇宙研のプロジェクトは研究者が前面に立って進めていますが、研究者の皆さんはプロジェクトを通して実現したいことを計画段階からとにかくいっぱいに盛り込もうとしてしまう傾向があります。私も研究者としてその思いは分かるものの、プロジェクトは実験室で行う実験とは違うので、プロジェクトの成果を最大限出すためにも内容を詰め込みすぎないよう、たくさん話をしました。ロケットや衛星が大型化すると打上げ頻度はどうしても限られるので、研究者のやりたいこととプロジェクトを成功させることをすり合わせるのは、なかなか難しいところだと思います。

学生さんや若手研究者へ、メッセージをお願いします。

現在研究に取り組んでいる学生の皆さんは、よい成果を出すことはもちろん大事ですが、今は「研究とは」というところを勉強している段階なので、まずは今の生活を楽しんでほしいです。例えば卒業論文(卒論)や修士論文(修論)をまとめあげて振り返った時に、それが楽しいものだったと言えることが一番大事だと思います。宇宙研で働く工学分野の若手研究者に関しては、自分の専門領域を確立していくことと併せて、宇宙研のプロジェクトにもしっかり参画して、プロジェクト側から頼ってもらえる人になってほしいです。いわゆる宇宙研らしさとは、この二つを両立してきた研究者によって延々と築き上げられてきたものなので、そういったい人材になってくれることを期待します。

インタビューの様子2

本日は貴重なお話をありがとうございました!佐藤教授と軽金属分野の益々の発展をお祈りしています。


用語解説

  • *1 熱ひずみ:物体が温度変化によって不均一な収縮や膨張をすることで発生する変形のこと。

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