JWSTで探る原始惑星系円盤の結晶質ダストのゆくえ
2026年6月4日 | 論文へのGATEWAY
地球のような岩石惑星の主な構成物はシリケイト鉱物*1であり、惑星形成の現場である原始惑星系円盤におけるシリケイト鉱物の性質を調べることは、惑星形成の歴史を理解する上で重要です。本研究では、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)*2を用いて原始惑星系円盤を観測し、過去のスピッツァー宇宙望遠鏡(SST)*3による観測結果と比較しました。その結果、中間赤外線で見られるシリケイト鉱物の特徴に有意な変化が確認され、数年スケールで円盤構造が変化している可能性が示唆されました。また、JWSTとSSTの両観測において、結晶質シリケイトは非晶質シリケイトよりも低温の領域、すなわち円盤の外側に多く存在することが示唆されました。これは、円盤内側の高温領域で形成された結晶質シリケイトが、円盤外側へ輸送されている可能性を示しています。今後、より多くの原始惑星系円盤について中間赤外線観測に基づくシリケイト鉱物特性の調査を進めることで、このようなシリケイト鉱物分布に関する統計的な理解が深まることが期待されます。さらに将来的には、日本の参画も検討されているNASAの次世代遠赤外線観測ミッションPRIMA計画*4によって、より低温の円盤領域に存在する結晶化シリケイトの特徴を多数の原始惑星系円盤で検出できる可能性があります。これにより、本研究で示されたシリケイト鉱物分布の時間変化や空間分布について、より統計的な理解が進むことが期待されます。
研究概要
私たちの住む地球のような惑星は、どのようにして誕生したのでしょうか。この謎に迫るためには、太陽よりもずっと若い、生まれたばかりの星を観測する必要があります。近年の赤外線観測や電波観測によって、若い星のまわりには、ガスやダストが円盤状に広がった構造が存在することが分かってきました。これは「原始惑星系円盤」と呼ばれ、惑星が生まれる現場だと考えられています。特に、地球のような岩石惑星は、その主な材料としてシリケイト鉱物を含んでいます。そのため、原始惑星系円盤の中でダストがどのような鉱物でできており、どのように変化していくのかを知ることは、惑星形成の過程を理解するうえで重要な手がかりになります。
本研究では、おおかみ座およびおうし座の星形成領域にそれぞれ位置する若い星 Sz 96 と IP Tau の周囲の円盤を観測しました。そしてJWSTを用いて、中間赤外線におけるシリケイトの特徴(シリケイトが特定の赤外線波長の光を吸収・放射することで現れる、放射のピークやディップ)を、過去にSSTで得られた観測結果と比較しました。その結果、SST と JWST で観測された中間赤外線スペクトル(シリケイト放射のプロット)が全体として変化していることが確認されました(図1)。本研究では、このスペクトル変化をシリケイト鉱物の放射成分に着目して解析し、円盤表層にある鉱物の温度や存在量、結晶化度などが変化した可能性を示しました。これは、数年スケールで円盤構造が変化していることを示唆しています。また、両天体において結晶質シリケイトが非晶質シリケイトよりも低い温度を示すことが明らかになりました。これは一見すると不思議な結果です。というのも、結晶質シリケイトは、もともと円盤の内側のような高温環境で加熱されて形成されると考えられているからです。今回の結果は、そのような高温の内側で作られた結晶質ダストが、その後、円盤の外側にあるより低温な領域まで運ばれたことを示唆しています(図2)。つまり、円盤の中では物質が活発に移動し、再配置されている可能性があるのです。
このような「高温で生まれた結晶が低温の場所に存在する」という描像自体は、これまでもSSTの観測から示唆されてきました。しかし今回、JWST の高い波長分解能によって、結晶質シリケイトに特有のスペクトルフィーチャーをこれまで以上に明瞭に識別できるようになりました。そのため、結晶質ダストの存在や、その温度が非晶質ダストと異なることを、より確かな形で捉えることができました。この成果は、原始惑星系円盤の中でダストが単に存在しているだけでなく、内側で生成され、外側へ運ばれ、環境に応じて変化していくことを示す重要な手がかりです。惑星の材料となるダストが円盤内でどのように進化するのかを理解するうえで、大きな意味を持つ結果といえます。
用語解説
- *1 シリケイト鉱物:ケイ素と酸素を主成分とする鉱物の総称。地球の岩石や砂の主要な成分であり、岩石惑星を形づくる基本的な材料の一つ。
- *2 ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST):NASAを中心にESA、CSAが協力して運用する赤外線観測宇宙望遠鏡。2021年12月25日打ち上げ。
- *3 スピッツァー宇宙望遠鏡(SST):NASAが運用していた赤外線観測宇宙望遠鏡。2003年8月25日に打ち上げられ、2020年1月30日に運用を終了した。JWST以前に、赤外線天文学を支えた主要な宇宙望遠鏡の一つ。
- *4 PRIMA計画:NASA が検討している次世代の遠赤外線宇宙望遠鏡計画。星・惑星系・銀河・宇宙の塵の形成や進化を、中間赤外線から遠赤外線の観測で調べることを目指す。
論文情報
| 雑誌名 | Monthly Notices of the Royal Astronomical Society, Volume 548, Issue 2, May 2026, stag273 |
|---|---|
| 論文タイトル | JWST–DECO: temporal variations in the mid-IR silicate features of two T Tauri discs based on Spitzer and JWST observations |
| DOI | https://doi.org/10.1093/mnras/stag273 |
| 発行日 | 12 February 2026 |
| 著者 | Naoto Sameshima, Takashi Miyata, Takafumi Kamizuka, Yuri Aikawa, Mitsuhiko Honda, Ilse Cleeves, Nicholas P. Ballering, Maria J. Colmenares, Camilo González-Ruilova, Viviana V. Guzman, Thomas J. Haworth, Charles J. Law, Jonathan P. Williams |
| ISAS or JAXA所属者 |
鮫島 直人(宇宙科学研究所 宇宙物理学研究系) |
鮫島 直人・東京大学 大学院理学系研究科 天文学専攻/