小惑星探査機「はやぶさ2」が捉えた太陽系外惑星:世界最小口径の観測器による検出成功
2026年5月25日 | 論文へのGATEWAY
これまで発見が困難であった公転周期の長い太陽系外惑星 (太陽以外の恒星を公転する惑星) を検出する手法として、超小型衛星による長期観測が注目されています。しかし、口径60 mm未満の小型観測器による成功例はこれまで報告されていませんでした。本研究では、小惑星探査機「はやぶさ2」に搭載された口径わずか15 mmの光学航法望遠カメラ(Telescopic Optical Navigation Camera; ONC-T)を用いて、太陽系外惑星が恒星の前を横切る際に星の見かけの明るさがわずかに減少するというトランジット現象を観測し、世界最小口径の観測器による検出に成功しました。本成果により、超小型衛星による太陽系外惑星観測の有効性が実証されただけでなく、将来ミッションで必要となる観測性能を満たすために、どの程度の望遠鏡口径が必要かを判断するための重要な指標を得ることができました。
研究概要
太陽系外惑星*1はこれまで約8,000個発見されていますが、その多くは、同程度の質量を持つ太陽系の惑星と比べて、公転周期が短い傾向があります。例えば、木星と同程度の質量を持ちながら主星の極めて近くを10日以下で公転する「ホットジュピター」と呼ばれる惑星が数多く見つかっています。一方で、太陽系の木星のように、公転周期が10年以上の木星型惑星はあまり発見されていません。
では、太陽系は宇宙の中で特異な存在なのでしょうか。必ずしもそうとは言えません。これは、質量が大きく公転周期の短い惑星ほど見つけやすいという観測手法に由来する偏りによるものです。例えば、トランジット観測は、惑星が恒星の前を横切る(トランジットする)際に恒星の見かけの明るさが減少する現象を利用した検出手法であるため(図1左)、横切る頻度の高い短周期惑星ほど発見されやすくなります。
このようなバイアスを低減する手段として、JAXAのLOTUS計画*2に代表される超小型衛星によるトランジット観測が注目されています。このような衛星を用いて同一の恒星を長期間継続観測することで、公転周期の長い木星型惑星の検出が可能になると期待されています。
しかし、これまでトランジット観測に成功した最小の宇宙機搭載観測器は、NASAのASTERIA衛星*3に搭載された口径60 mmの望遠鏡であり、それより小型の観測器でどこまで高精度な観測が可能かは明らかになっていませんでした。
「はやぶさ2」の観測成果
本研究では、小惑星探査機「はやぶさ2」に搭載された口径15 mmの光学航法望遠カメラ(ONC-T)(図1右)を用いて、世界最小口径の観測器による太陽系外惑星のトランジット観測に挑みました。
「はやぶさ2」は、小惑星リュウグウから試料を採取し、2020年に地球へ帰還した後、2026年の小惑星トリフネの接近通過に向けて航行中の探査機です。光学航法望遠カメラは、リュウグウの科学観測に貢献したほか、惑星間ダストによる微弱な散乱光の検出にも成功しており、小型ながら高精度な観測が可能です。一方で、打上げから10年以上が経過し、宇宙線照射による劣化も見られます。こうした条件は、小型観測器による長期のトランジット観測の可能性を検証する上で好適な環境となっていました。
公転周期の短いホットジュピターに分類される2つの太陽系外惑星WASP-189 bとMASCARA-1 bのトランジットを、2年間にわたり計14回観測しました。各イベントでは約21時間の連続観測を行い、合計約1万枚の画像を取得しました。その結果、トランジットに伴う約0.5%の恒星減光を捉えることに成功し(図2)、WASP-189 bとMASCARA-1 bをそれぞれシグナル対雑音比*4 40および16で検出しました(図3)。観測結果は、口径が約7倍大きいNASAのTESS衛星*5による観測とも整合的であり、高い測定精度が確認されました。例えば、トランジット時刻は約2分、減光率から求めた惑星と恒星のサイズ比は約0.2%の精度で決定されました。以上より、口径15 mmという極めて小型の光学系の観測器であっても、また10年以上の宇宙線による影響を受けたあとでも、木星型惑星のトランジット観測に十分な性能を有することが示されました。
また本観測により、MASCARA-1 bの公転周期が過去の観測結果と一致しない可能性が示唆されました。この原因として、恒星や近傍惑星との重力相互作用によって惑星の軌道が乱され、公転周期がわずかに変動している可能性が挙げられます。今後、長期的な観測が重要な天体であることが示されました。
今後の展望
本実証結果により、太陽系外惑星の検出に必要な望遠鏡口径の要件を低減できることが示され、将来的に超小型衛星を用いた観測の拡大が期待されます。たとえ今回の光学航法望遠カメラと同程度の小口径望遠鏡であっても、同一恒星を年単位で継続観測することで、これまで発見されていない公転周期の長い木星型惑星の検出が可能となります。こうした観測により、太陽系と類似した惑星配置を持つ恒星の存在頻度が明らかとなり、太陽系の普遍性や特異性の理解が進むことが期待されます。
用語解説
- *1 太陽系外惑星:太陽系外にある、他の恒星の周りを公転する惑星のこと。
- *2 LOTUS計画:「LOng-period Transiting exoplanet sUrvey Satellite(LOTUS)」計画は、超小型衛星を用いて公転周期の長い太陽系外惑星の検出を目指す、JAXAの将来ミッション構想である。
- *3 ASTERIA衛星:「Arcsecond Space Telescope Enabling Research in Astrophysics(ASTERIA)」衛星は、恒星活動や太陽系外惑星の観測を目的としてNASAが開発した、6Uサイズ(約10 × 20 × 30 cm)、望遠鏡口径6 cmの小型衛星である。2017年に打ち上げられ、観測を順調に実施した後、2020年にミッションを終了した。
- *4 シグナル対雑音比:観測信号の強さ(今回の場合、トランジットに伴う減光量) をノイズの大きさで割った指標。
- *5 TESS衛星:「Transiting Exoplanet Survey Satellite(TESS)」衛星は、明るい恒星を全天にわたって観測し、その周囲にある太陽系外惑星を検出することを目的としてNASAが開発した、望遠鏡口径10.5 cmの衛星である。2018年に打ち上げられ、現在も観測を続けている。
論文情報
| 雑誌名 | The Astronomical Journal |
|---|---|
| 論文タイトル | Demonstrating Exoplanet Transit Photometry from Space with a 15 mm Aperture Optical Navigation Camera on Hayabusa2 |
| DOI | https://doi.org/10.3847/1538-3881/ae3b28 |
| 発行日 | 2026 February 25 |
| 著者 | Koki Yumoto, Toru Kouyama, Manabu Yamada, Yuya Mimasu, Tomokatsu Morota, Yuichiro Cho, Yasuhiro Yokota, Masahiko Hayakawa, Anthony Arfaux, Eri Tatsumi, Moe Matsuoka, Naoya Sakatani, Sumito Shimomura, Shingo Kameda, Satoshi Tanaka, Keigo Enya, and Seiji Sugita |
| ISAS or JAXA所属者 |
湯本 航生(宇宙科学研究所 太陽系科学研究系)、三桝 裕也(宇宙科学研究所 宇宙科学プログラムディレクタ付)、早川 雅彦(宇宙科学研究所 太陽系科学研究系)、坂谷 尚哉(宇宙科学研究所 太陽系科学研究系)、下村 純人(宇宙科学研究所 科学衛星運用・データ利用ユニット)、田中 智(宇宙科学研究所 太陽系科学研究系)、塩谷 圭吾(宇宙科学研究所 太陽系科学研究系) |
湯本 航生・宇宙科学研究所 太陽系科学研究系