ペロブスカイト太陽電池の高い放射線耐性を厚さ4 µmの超薄型構造で初実証~宇宙探査に向けた軽量・展開型太陽電池の実現に道~

甚野 裕明・宇宙科学研究所 宇宙機応用工学研究系

宇宙科学研究所宇宙機応用工学研究系の甚野裕明助教らの研究グループは、全厚4ミクロンの超薄型ペロブスカイト太陽電池が高いガンマ線耐性を有することを実証しました。ペロブスカイト太陽電池*1は、高い耐放射線性を持つことから宇宙用太陽電池としての応用が開発されています。しかしこれまで、その耐放射線性の評価は主にガラス基板上のデバイスに限られており、厚さ5ミクロン以下の超薄型・フレキシブル構造における耐放射線性は明らかになっていませんでした。そこで本研究グループは、超薄型のパリレン*2/SU-8基板を用いたペロブスカイト太陽電池に対してガンマ線照射試験を行い、宇宙基準の10倍以上に相当する890 kradの高線量ガンマ線照射後においても高い安定性を示すことを明らかにしました。本成果により、超薄型構造*3においてもペロブスカイト太陽電池が高い耐放射線性を有することが示されました。これにより、打上げ時には折り畳み、宇宙空間で大面積に展開することで大電力を発電可能な、軽量・フレキシブルな宇宙用太陽電池の実現が期待されます。

研究概要

近年注目されているペロブスカイト太陽電池は、イオン結合性に由来する高い耐放射線性を有することが知られており、フレキシブル・軽量・高効率といった特長から、シリコンに代わる新たな宇宙用軽量太陽電池として期待されています。一方で、これまでのペロブスカイト太陽電池の耐放射線性評価は主にガラス基板上のデバイスに限られており、厚さ5ミクロン以下の超薄型・フレキシブル構造における耐放射線性は明らかになっていませんでした。

本研究では、厚さ4ミクロンの超薄型ペロブスカイト太陽電池に対してガンマ線照射試験を行い、890 kradの高線量ガンマ線照射後も超薄型ペロブスカイト太陽電池が基板着色などの劣化を示さず、高い耐放射線性を維持することを実証しました。ガラス基板上デバイスでは基板着色に起因する効率低下により、照射後の効率が初期値の86%まで低下したのに対し、超薄型基板上の太陽電池では照射後も初期値の99%を維持することを確認しました(図1b)。

図1
図1 開発した超薄型ペロブスカイト太陽電池のガンマ線照射耐性
(a)890 kradガンマ線照射後のガラス基板、超薄型基板ペロブスカイト太陽電池のデバイス写真. スケールバー:1 cm。
(b)ガラス基板・超薄型基板それぞれに作製されたペロブスカイト太陽電池の効率保持率のガンマ線照射線量依存性. H. Jinno & et al., Solar RRL, 2026の図を元に改変(CC BY 4.0)。

さらに本研究では、ガラス基板と超薄型基板の両方で太陽電池特性の照射依存性を比較することで、放射線による劣化を基板由来とデバイス由来に切り分けて評価することで、ペロブスカイト太陽電池の放射線劣化には基板依存の影響とデバイス固有の影響が存在することを確認しました。この結果は、超薄型太陽電池における耐放射線性の理解に向け新たな視点を与えるものです。

本研究で開発した超薄型ペロブスカイト太陽電池は、従来の宇宙用薄膜太陽電池と比較して10~100分の1の厚さを実現した構造を有しています。さらに、高い耐放射線性を有することから、ガラスによる保護膜を必要としない超薄型太陽電池の軽量・フレキシブル性を最大限活かした構造が可能となります(図2a)。これにより、打上げ時には折り畳み、宇宙空間で大面積に展開して発電する新しい宇宙用電源としての応用が見込まれます。

特に、本技術を大面積の展開型太陽電池パドルとして応用することで、大電力を必要とする超小型地球周回衛星向けの太陽電池パドルや、土星や木星といった太陽光が弱い深宇宙環境において探査ミッションに必要な電力を確保できる大面積太陽電池パドルの実現につながります(図2b)。本成果は、軽量かつ大面積に展開可能な宇宙用太陽電池の基盤技術として、将来の宇宙ビジネス・宇宙探査への応用が期待されます。

図2
図2 超薄型ペロブスカイト太陽電池が実現する軽量・フレキシブルな展開型宇宙太陽電池パドル
(a)本研究で開発された耐放射線性の超薄型ペロブスカイト太陽電池と従来太陽電池の違い。
(b)超薄型太陽電池を用いた将来宇宙機プロトタイプ. 大面積フレキシブルな太陽電池パドルが本体から展開し発電する。

用語解説

  • *1 鉛・ハロゲン・有機分子イオンからなるペロブスカイト結晶を活性層とする薄膜太陽電池。印刷可能で軽量・フレキシブルかつ高効率という特長を持ち、近年は地上用太陽電池として実用化・実証が進んでいる。
  • *2 パラキシレン系ポリマーの一種で、ドライプロセスにより室温で成膜可能な高分子材料。高い耐放射線性を有し、宇宙用途を含む各種電子デバイスの保護膜として利用されている。なお、「パリレン®」は日本パリレン株式会社の登録商標である。
  • *3 基板の厚さを1~5ミクロン程度まで薄型化した薄膜デバイス。基板をデバイスと同程度の厚さまで薄くすることで、高い曲げ耐性(超フレキシブル性)と軽量性を実現できる。

論文情報

雑誌名 Solar RRL, Wiley
論文タイトル Ultrathin Perovskite Solar Cells with γ-Ray Tolerance Enabled by a Flexible Radiation-Resistant Plastic Substrate
DOI https://doi.org/10.1002/solr.70339
発行日 20 April 2026
著者 Hiroaki Jinno, Tomoyuki Yokota, Dou Zhao, Daisuke Kobayashi, Takahiro Makino, Akinori Takeyama
ISAS or
JAXA所属者
甚野 裕明(宇宙科学研究所 宇宙機応用工学研究系), 小林 大輔(宇宙科学研究所 宇宙機応用工学研究系)

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執筆者

甚野 裕明

甚野 裕明(JINNO Hiroaki)
2019年9月 東京大学大学院工学系研究科電気系工学専攻 博士(工学)取得
2019年10月~2019年11月 同研究系 学振PD(DC転換)
2019年11月~2020年10月 スイス連邦工科大ローザンヌ校 ポスドク研究員
2020年11月~2023年3月 スイス連邦工科大チューリッヒ校 ポスドク研究員
2023年4月 宇宙科学研究所 助教