惑星はスノーラインで形成されたのか?

兵頭 龍樹・宇宙科学研究所 太陽系科学研究系

さて、“太陽系の惑星はどのように形成されたのか?” — 近くの図書館に出向き、教科書を見てみる。すると、「約46億年前、太陽の周りにはガス円盤が存在した。そのガス円盤中に小さな塵がまんべんなく存在した。その塵が少しずつ集まり惑星となった。」と書いてある。しかしほんとうにそうなのか? — 数値シミュレーションをやってみる。すると、小さな塵は確かに集まる。しかし小石(=ペブル)くらいの大きさになると、太陽に向かって急速に落下する。なぜなら、ペブル程度の大きさになると、固体粒子はガス抵抗を最も効率良く受けるからだ(ガスは小石に比べて、太陽周りを少しゆっくりと回っている)。つまりペブルくらいの大きさになると、それ以上に成長することなく太陽に落下してしまう。これが惑星形成の「固体落下問題」である。さらに別の不都合な真実がある。ガス円盤中に広くまんべんなく存在する塵が、その場で集まって惑星まで成長したとする。その場合、地球に隣接する火星は、地球くらいの大きさになるべきである。同様に、水星はもっと大きいものであるべきだし、小惑星帯の場所には、小惑星ではなく、惑星があってもおかしくない。本研究は、このような「教科書に残された課題」を解決するのがスノーラインかもしれないと提案する研究の一つである。惑星は、スノーラインという「特別な場所」で形成されたのかもしれない。

研究概要

(H2O)スノーラインとは、水の存在形態を気体と氷で分ける太陽からの距離のことである(それより太陽に近いと温度が高いので氷は昇華して水蒸気となる)。遠方ほど円盤面密度が下がる典型的なガス円盤中で、小石(=ペブル)程度の大きさを持つ固体粒子は、ガス抵抗*1によって太陽に効率的に落下してしまう。これでは惑星を作ることができない。

本研究では、数値計算を用いて「ガス円盤中のペブル落下過程におけるスノーラインの影響」を詳細に調べたものである。その結果の概要を以下に説明する(アニメーション参照)。

スノーラインで固体粒子が局所的に濃集するプロセスのアニメーション。スノーラインよりも遠方で形成される小石(=ペブル)は、岩石と水氷を含む。そしてガス抵抗により内側へ流れていく。ペブルは、スノーラインに到達すると昇華し、岩石粒と水蒸気が放出される。岩石粒は小さいので、ガスの運動に簡単に馴染む。そして内側に流れる速度が小さくなる。このため、いわゆる「岩石粒の交通渋滞」が起こり、岩石粒がスノーラインのすぐ内側に溜まる。水蒸気と岩石粒は拡散する。スノーラインのすぐ外側では、水蒸気の再凝縮と岩石塵の付着によってペブルが局所的に溜まる。このような固体粒子の局所濃集は、惑星の材料物質である微惑星を局所的に作ることになる。

スノーラインに達したペブル(岩石と水氷成分を含む)は、その氷成分を昇華で失い、水蒸気がそこで発生する。岩石成分は昇華しないので固体として残るが、水氷の消失に伴って小さくなる。小さくなるとガス抵抗が効きにくくなり、落下スピードが突然に下がる。すなわち、スノーラインのすぐ内側で“岩石の交通渋滞”が起こる(=岩石粒が溜まる)。一方、水蒸気の一部がスノーラインの外側に拡散し、再凝縮が起こる。そして、次々と落下してくるペブルの存在に相まって、スノーラインのすぐ外側で水氷が局所的に溜まる。

このようにして、ガス円盤中でスノーラインは、特別な場所となる。その周囲にてのみ、岩石と水氷が濃集するのである*2。局所的に十分に濃集した岩石塵やペブルは1~100キロメートルサイズの微惑星まで成長し、惑星の材料物質になると期待される。つまり、「惑星はスノーラインで形成される」可能性がある。

また、ガス円盤が時間進化することで、スノーラインの場所は時間と共に変化する。それゆえに、スノーラインの移動に伴いながら岩石塵やペブルの濃集場所 — 微惑星が形成される場所 — が変化する。このようにして、太陽からある特定の距離にある特定の幅で(のみ)微惑星が形成される。言い換えると、ある特別な場所でのみ惑星が形成されうる。さらには、太陽系の地球型惑星 — 両端の水星と火星は小さく、真ん中の金星と地球はそれより大きい特徴 — が、ある狭い範囲にばらまかれた微惑星から形成されうると報告されている*3。もしかしたら太陽系の惑星は、スノーラインという「特別な場所」で形成されたのかもしれない*4

用語解説

  • *1 円盤ガスは流体的であるので、動径方向に圧力勾配が存在する。そのため、ケプラー運動をする固体粒子に比べて、ガスは太陽周りを少しだけゆっくりと回る。つまり固体粒子は、そのケプラー運動において、ガスから“向かい風”を受ける。これが固体粒子の運動に対する抵抗力(ガス抵抗)として働く。
  • *2 スノーライン周囲で溜まる岩石と水氷の比率は、ガスの拡散の強さや岩石粒の大きさによって変化する。つまりスノーラインで、多様な水岩石比を持つ微惑星が形成されうる(Hyodo R. et al. 2021 A&A, 646, A14)。
  • *3 参考文献は、Hansen, B. M. S. 2009, ApJ, 703, 1131。
  • *4 さらに、隕石から報告されている太陽系物質の同位体二分性(太陽系物質の同位体を測ると、二つのグループに分けられることが報告されている)についても、スノーラインの移動に伴う(時間的/空間的に不連続な)微惑星形成で説明できうると報告されている(e.g., Charnoz S. et al., 2021 A&A, 652, A35; Lichtenberg T. et al., 2021 Science, 371, 6527, 365)。

論文情報

雑誌名 Astronomy & Astrophysics (A&A)
論文タイトル Planetesimal formation around the snow line. II. Dust or pebbles?
DOI https://doi.org/10.1051/0004-6361/202039894
発行日 2021年2月2日
著者 Hyodo R., Guillot T., Ida S., Okuzumi S. and Youdin A.
ISAS or
JAXA所属者
兵頭 龍樹(太陽系科学研究系)

関連リンク

執筆者

兵頭 龍樹(HYODO Ryuki)
神戸大学 理学部卒業、神戸大学理学研究科 (パリ地球物理研究所(IPGP)) 博士課程修了。
東京工業大学・地球生命研究所(ELSI)日本学術振興会特別研究員(PD)を経て、2019年10月より国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所 国際トップヤングフェロー(ITYF)