準惑星ケレスに衝突した隕石のサイズ分布の「月との一致」と「望遠鏡観測との不一致」

豊川 広晴
総合研究大学院大学 物理科学研究科 宇宙科学専攻 / 宇宙科学研究所 太陽系科学研究系

火星軌道と木星軌道の間に位置する小惑星帯は、月や地球型惑星に衝突する隕石の主な供給源であると、主に月における衝突史から推察されてきました。しかし、そうした隕石を生んだであろう小惑星帯内での衝突史にはまだ不明な点が多く残っています。本論文では、小惑星帯最大の天体である準惑星ケレス(直径約1000km)における衝突クレーターのサイズ分布を、NASAのDawnミッションによる高解像度画像(35m/画素)を用いて解析することで、小惑星帯内における直径1 km以下の隕石のサイズ分布を詳細に調べ上げました。その結果、ケレスに衝突した隕石のサイズ分布が様々な年代において、月に衝突した隕石のそれとよく一致することが明らかになりました。しかし一方で、ケレスへ衝突した隕石の直径1 km以下のサイズ分布は、現在望遠鏡によって観測される小惑星帯天体のサイズ分布とは大きく異なる傾向を持つことも明らかになりました。本研究でのこれらの成果は、太陽系内における天体移動や衝突現象のプロセスを理解する上で、重要な制約になることが期待されます。

研究概要

図1 小惑星帯のイメージ図(Credit: NASA/JPL-Caltech)

火星軌道と木星軌道の間に位置する小惑星帯*1は、内側太陽系*2に存在する月や地球型惑星へ衝突する隕石の主な供給源だと考えられています(図1)。その一つの根拠となっているのが月や地球型惑星における衝突クレーター*3のサイズ頻度分布*4です。衝突クレーターのサイズとそれを形成した隕石のサイズの関係を仮定することで、クレーターのサイズ頻度分布から隕石のサイズ頻度分布が推定できます。月や地球型惑星における直径1 km以上の隕石のサイズ頻度分布が、実際に望遠鏡観測されている直径1 km以上の小惑星帯天体のサイズ頻度分布によく似ていることから、月や地球型惑星へ衝突した隕石の多くは小惑星帯から飛来してきたものであると考えられています。しかし直径1 km以下の隕石に関しては、月へ衝突した隕石のサイズ頻度分布は望遠鏡観測とは一致しないとするモデルも存在し、未だ議論が続いています。小惑星帯から内側太陽系への小惑星帯天体の移動過程を明らかにするためには、内側太陽系だけでなく小惑星帯内での衝突史を理解することも重要となりますが、小惑星帯内での衝突史はよくわかっていませんでした。

図2 準惑星ケレス(Credit: NASA/JPL-Caltech/UCLA/MPS/DLR/IDA)

そこで本研究では、小惑星帯で最大(直径約1000km)の天体である準惑星ケレス(図2)におけるクレーターサイズ頻度分布を調査しました。クレーターサイズ頻度分布の調査にあたって、ケレス表面に存在する約25万個の直径1 km以上のクレーターを、NASAの小惑星探査機Dawnによって得られた高解像度画像(35m/画素)を使用して、目視・手作業でカウンティングしました。

調査の結果、ケレスの表面全体におけるクレーターサイズ頻度分布は、月から類推したクレーター生成関数*5モデルとよく一致するということがわかりました(図3(a))。すなわち、ケレス表面に衝突した隕石のサイズ頻度分布が月とよく一致するということです。また、ケレスの様々な年代(モデル年代*6:約2億年–約20億年前)の領域ごとにクレーターサイズ頻度分布を調査したところ、そのような月との一致が年代に依存しないこともわかりました。

図3 (a)準惑星ケレスの表面全体に存在するクレーターのサイズ頻度分布。ここでは、クレーター個数のサイズによる違いを詳細に示す、Rプロットと呼ばれる表現で表している。青色の点がクレーターのサイズ頻度分布である。オレンジ色の曲線は、月から類推したクレーター生成関数モデル(Hiesinger et al. 2016)。(b)ケレスへ衝突した隕石と観測される小惑星帯天体のサイズ頻度分布の比較。青色の点はケレスへ衝突した隕石の推定されるサイズ頻度分布、緑色の曲線は地上望遠鏡によって観測される小惑星帯天体のサイズ頻度分布(Yoshida et al. 2019)を表している。

しかし一方で、クレーターサイズ頻度分布から推定される、ケレスに衝突した直径1 km以下の隕石のサイズ頻度分布は、望遠鏡観測されている小惑星帯天体のサイズ頻度分布とは異なる傾向を持つことが明らかになりました(図3(b))。ケレスに衝突する隕石はサイズが小さいほど相対的に個数が多くなっているのに対して、望遠鏡観測されている小惑星帯に存在する天体は小さいものほど相対的に個数が少なくなっています。

  このようなケレスに衝突した隕石のサイズ頻度分布の、月との一致と、望遠鏡観測との不一致が同時に起きるプロセスは、既存の学説ではうまく説明することができません。本研究で得られた結果は、太陽系内の小惑星帯天体の移動や衝突現象に関する今後の研究に新たな制約を与えると期待されます。

用語解説

  • *1 小惑星帯 : 火星軌道と木星軌道の間にある、小惑星が多く存在する領域。直径1 km以上の小惑星が100万個以上存在すると考えられている。なお、「はやぶさ2」が到達した小惑星リュウグウは、地球軌道から火星軌道あたりまでの軌道を回っていて「地球近傍小惑星」とよばれ、小惑星帯の小惑星とは区別される。
  • *2 内側太陽系 : ここでは、地球型惑星(水星・金星・地球・火星)の存在する領域のことをいう。
  • *3 衝突クレーター : 隕石衝突によって形成される凹み地形。
  • *4 クレーターのサイズ頻度分布 : クレーターの、サイズ(例えば直径)と個数の関係。すなわち、どのくらいのサイズのクレーターがどのくらいの個数あるか、を示す。
  • *5 クレーター生成関数 : 固体天体における、年代ごとのクレーターサイズ頻度分布を表す。月から持ち帰られた岩石や砂の試料について、放射性同位体の壊変現象を利用してその試料が形成された年代(絶対年代)が得られる。その絶対年代と、試料が取得された場所のクレーターのサイズ頻度分布との関係からクレーター生成関数を得る試みがなされている。
  • *6 (クレーター)モデル年代 : クレーター個数が多いほど古く、少ないほど新しいという原理に則った上で推定される年代のこと。クレーター生成関数をもとに、試料が得られていない場所についても、クレーターサイズ頻度分布から、その場所の形成時期が(クレーター)モデル年代として得られることになる。

論文情報

雑誌名 Icarus
論文タイトル Kilometer-scale crater size-frequency distributions on Ceres
DOI https://doi.org/10.1016/j.icarus.2022.114909
発行日 2022年1月29日 (online)
2022年5月1日 (in print)
著者 Kosei Toyokawa, Junichi Haruyama, Naoyuki Hirata, Sayuri Tanaka, Takahiro Iwata
ISAS or
JAXA所属者
TOYOKAWA Kosei (総合研究大学院大学/宇宙科学研究所 太陽系科学研究系), HARUYAMA Junichi (総合研究大学院大学/宇宙科学研究所 太陽系科学研究系), IWATA Takahiro (総合研究大学院大学/宇宙科学研究所 太陽系科学研究系)

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執筆者

豊川 広晴(TOYOKAWA Kosei)
神戸大学 理学部 惑星学科卒業。
現在、総合研究大学院大学 物理科学研究科 宇宙科学専攻二年、宇宙科学研究所 太陽系科学研究系に所属。

ISAS共著者からひとこと

小惑星帯に存在する準惑星ケレスに米国のDawn探査機が到達したのは2015年。Dawnは、それから約3年以上観測を続け、多くの素晴らしいデータを、地球から最大5億km以上も離れた彼方から送ってきました。本研究では、Dawnの高解像度画像データを使わせていただきました。優れた探査機開発・運用、そして公開に至るまでの地道で根気のいったであろうデータ処理作業を成し遂げられたDawnチームに対して、心からの敬意を表したいと思います。これまでに多くの重要な発見がDawnデータの解析から得られていますが、それでもまだまだデータは解析され尽くされているとはいえません。今後のDawnデータの解析から、さらに様々な発見がこれからももたらされるでしょう。こうした発見はケレスの理解ということにとどまらず、本研究成果のように、地球を含む太陽系の進化についての理解をさらに深めていくことに繋がっていくことでしょう。

春山 純一(HARUYAMA Junichi)
宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所、太陽系科学研究系 助教。理学博士。専門は、月惑星科学、月惑星探査。京都大学大学院から博士号(理学)を得た後、米国カリフォルニア工科大学で客員研究員。その後、宇宙開発事業団。宇宙三機関統合後、現職。福島県立会津大学大学院コンピュータ理工学研究科(特任上級准教授)などでも教育や研究指導にもあたる。月探査SELENE(かぐや)計画地形カメラのPI。その他、JUICE計画可視カメラJANUS日本メンバー代表。JGR-planetsのAssociate Editor(アジア人として初)なども歴任。