「あかり」が明らかにした、原始惑星系円盤中にあるダストの消失時間

前嶋 宏志
東京大学大学院 理学系研究科 物理学専攻/宇宙科学研究所 (論文執筆時)

原始惑星系円盤とは若い星周りに存在する、惑星を作るもととなるガス・ダスト円盤です。円盤の消失時間や消失過程は、惑星形成に影響を与えます。しかし、今までは検出器の感度が低いため円盤の外側領域(中心星から約10 au)の消失時間は観測的に明らかになっていませんでした。本研究では、若い星の赤外線画像を、赤外線天文衛星「あかり」とWide-field Infrared Survey Explorer(WISE)の全天観測データを用いて多数取得しました。個別検出できない円盤も含めて赤外線画像を足し合わせることで、実質的な感度を向上させました。これにより、ダストから放射される赤外線の減衰時間を調べました。その結果、内側から消失するという従来の予想に反して、中間領域(約1 au)と外側領域でダスト消失時間がほぼ同じであることを示しました。さらに、支配的なダストが、円盤初期から存在する「1次ダスト」から、小さな惑星同士の衝突破壊で生成された「2次ダスト」へと切り替わる時間が約800万年であることを観測的に明らかにしました。

研究概要

原始惑星系円盤は若い星周りの惑星の素材となるガス・ダスト*1円盤です。この円盤は中心星の進化とともに消失すると考えられています。したがって、この消失過程や消失時間は、惑星形成に大きく影響します。円盤の内側〜中間領域(中心星から約1 au*2以内)の消失時間はすでに調べられていますが、今までは検出器の感度が低いため外側領域 (約10 au)の消失時間は観測的に明らかとなっていませんでした。また、円盤中の支配的なダストが、円盤初期から存在する「1次ダスト」から小さな惑星(微惑星)同士の衝突破壊で生成された「2次ダスト」へと切り替わる時間もはっきりとしていませんでした。

図1 原子惑星系円盤の模式図。中心星からの距離と温度、ピーク赤外線波長の関係を示す。中心星に近いほど温度が高く、ダストが放射する赤外線ピーク波長が短波長となる。特に「あかり」が観測した遠赤外線帯 (波長約100μm) は主に外側領域 (約10 au) から、WISEが観測した中間赤外線帯(波長約10 μm) は中間領域(約1 au) から放射される。

円盤の平均的な消失時間を調べるには、多くの円盤を観測して統計的に調べる必要があります。近年、ミリ・サブミリ波長帯での原始惑星系円盤中のダストの空間分解観測が進んでいますが、多くの円盤を1つ1つ空間分解するには膨大な観測時間が必要となり、現実的ではありません。一方で、ダストは中心星から遠いほど冷たく、放射赤外線の波長ピークが長波長側となります(図1)。したがって、円盤を空間的に分解できなくても、異なる赤外線波長で観測することでダストの空間分布情報が得られると期待されます。そこで本研究では、複数の赤外線波長帯での若い星の画像を、赤外線天文衛星「あかり」*3とWide-field Infrared Survey Explorer(WISE)*4の全天観測データを用いて多数取得しました。しかし、進化の進んだ円盤は赤外線強度が弱く検出が困難です。よって、若い星を年齢ごとにグループ分けをし、同一年齢グループの星の赤外線画像を足し合わせて平均化しました。ノイズに埋もれて検出できない画像も含めて足し合わせますが、平均化によりランダムなノイズ成分が低下することで、個別画像より高い感度で平均赤外線画像を取得することができます。このようにして得られた年齢グループごとの平均赤外線画像をもとに、赤外線強度の減衰時間を調べました。

本研究の結果、以下の2つのことがわかりました。
(1)ダストの消失時間は中間領域から外側領域にかけて約140万年とほぼ同じ時期であり、この領域において差がないことが明らかとなりました。円盤は内側から外側へ向かって消失が進んでいくと考えられてきましたが、本結果は、その予想に反しています。このことは外側領域の消失時間を示した本研究結果により定量的に明らかになりました。
(2) 支配的なダストが、円盤形成初期から存在する「1次ダスト」から円盤中の小さな惑星(微惑星)同士の衝突破壊で生じる「2次ダスト」へ切り替わる時間が約800万年であることを観測的に明らかにしました(図2)。支配的なダスト成分の変遷を知ることで、円盤進化の理解につながると期待しています。

図2 本研究の平均円盤ダスト質量(赤)と先行研究の個別円盤ダスト質量(青・オレンジ)の比較 (Maeshima et al. 2021 一部改変)。赤線は本研究の平均ダスト質量の減衰フィット曲線を示す。黒点線は、微惑星衝突破壊モデルによる2次ダストの減衰曲線を示す。赤線と黒点線の交点が、支配的なダストが1次ダストから2次ダストへ変遷するタイムスケールとなる。

本研究は、原始惑星系円盤のダスト消失時間を定量的に示しました。しかし、どのような物理的過程により円盤が消失していくかはまだ議論の余地があります。本研究結果が消失過程の時間的制約を示したことで、惑星形成過程の理論的研究がさらに進むと期待されます。

用語解説

  • *1 ダスト : 宇宙空間の個体微粒子。
  • *2 au : 距離の単位。太陽-地球間距離が1 auに相当する。
  • *3 赤外線天文衛星「あかり」 : 2006年に打ち上げられた、日本が中心となって開発した赤外線天文衛星。赤外線での全天観測と分光観測を行なった。特に全天観測は、6つの波長バンド(9, 18, 65, 90, 140, 160 µm) で行われた。
  • *4 WISE(Wide-field Infrared Survey Explorer) : 2009年に米国が打ち上げた赤外線天文衛星。4つの赤外線波長バンド (3.4, 4.3, 12, 22 µm) で全天を観測した。

論文情報

雑誌名 Publications of the Astronomical Society of Japan
論文タイトル Dust dissipation timescales in the intermediate and outer regions of protoplanetary disks
DOI https://doi.org/10.1093/pasj/psab095
発行日 2021年10月28日
著者 Hiroshi Maeshima, Takao Nakagawa, Takuya Kojima, Satoshi Takita, Jungmi Kwon
ISAS or
JAXA所属者
Hiroshi Maeshima(宇宙科学研究所 宇宙物理学研究系/東京大学大学院 理学系研究科 物理学専攻), Takao Nakagawa(宇宙科学研究所 宇宙物理学研究系), Takuya Kojima(宇宙科学研究所 宇宙物理学研究系/東京大学大学院 理学系研究科 物理学専攻)

関連リンク

執筆者

前嶋 宏志(MAESHIMA Hiroshi)
2016年 東京大学 理学部 物理学科 卒業
2018年 東京大学大学院 理学系研究科 物理学専攻 修士課程 修了
2021年 東京大学大学院 理学系研究科 物理学専攻 博士課程 修了
2016-2021年 宇宙科学研究所 宇宙物理学研究系 赤外線グループ 中川研究室(研究執行当時)
2021年-現在 民間企業に就職