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人工衛星の姿勢とオイラー角

天球に対する人工衛星の姿勢を、オイラー角を使って表わすことができる。 多くの科学衛星では、スピン軸が衛星の+Z軸、衛星の太陽電池パネルは+Y軸の方向を向いていて、観測方向(望遠鏡が向いている方向)は+Z軸方向である。 Z軸を天の北極、X軸を春分点、Y軸を赤経=$90^\circ$ が衛星の初期姿勢で、そこからZYZの順に回転させていった3つのオイラー角で、衛星の姿勢を定義する。

十分な発電量を得るため、+Y軸は、常に太陽の方向を向いている必要がある [*]。 季節によって、太陽は黄道上を移動し、+Z軸方向を観測するので、観測ターゲットは、太陽と約90$^\circ$を なす大円上になくてはならないことがわかる。また、黄道座標の北極 (North Ecliptic Pole; NEP) と南極(South Ecliptic Pole; SEP)は、一年中観測可能であることがわかる。

自転軸のまわりにくるくるとスピンしながら、全天をくまなくサベイ観測する科学衛星がある。 ドイツのROSAT衛星(X線)、日本のあかり衛星(赤外線)などである。これらの衛星のスキャンパスをみると、 NEPとSEPを通る大円になっていることがわかる。たとえば、 https://plain.isas.jaxa.jp/~ebisawa/Planetarium/RASS_AIT.jpgを参考に。これは、 ROSAT衛星のデータを赤道座標で表し、Hammer-Aitoff投影法で表示したものである [*]。 画像処理をしていないので、スキャンのパスがよくわかる。 スキャンパスが集束している右上の点がNEP、左下の点がSEPである。

他の衛星についても同様である。日本の「あすか」衛星は全天サベイ衛星ではないが、 姿勢変更のときは、やはり太陽方向のY軸を中心として回転するので、その間の 観測パスはNEP, SEPを通ることになる。姿勢制御中のデータを解析したものが、下の論文の 図1にある。銀河座標、黄道座標で表示してある。銀河座標ではNEPは左上、SEPは右下に来る事に 注意。 https://plain.isas.jaxa.jp/~ebisawa/TEACHING/2007Komaba/nikko_proceeding.pdf

日本の「あかり」衛星は赤外線全天サベイ衛星である。たとえば、 https://www.ir.isas.jaxa.jp/ASTRO-F/Outreach/results/IRC_AllSky_red.jpgや、 https://www.ir.isas.jaxa.jp/ASTRO-F/Outreach/results/PR081119/IRC09AllSky01_ss.pngを見てみよ(銀河座標)。よ〜く見ると、スキャンパスがNEP、SEPを通っていることがわかるだろう。

衛星のオイラー角と、観測している視野の関係は大切である。ZYZのオイラー角を $(\phi,\theta, \psi)$としよう。 衛星の+Z軸が観測装置が見ている方向だから、赤経(R.A.)、赤緯(Dec.)は、

\begin{displaymath}
R.A. = \phi, Dec. =90^\circ - \theta
\end{displaymath} (57)

で与えられることがただちにわかるだろう。

第3オイラー角、$\psi$は、観測装置がターゲットの周りに回転する角、いわゆるロール角を与える。 慣習として、ロール角は、天の北から観測装置の+Y軸(DETY)へ、反時計周りに計った角を使う[*]。第3オイラー角とロール角(ROLL)の関係は、

\begin{displaymath}
Roll =90^\circ - \psi
\end{displaymath} (58)

で与えられる。

NEPは一年中観測できるので、ポピュラーな領域である。 人工衛星による実際の観測においては、観測ターゲットの天球上での位置と季節(太陽の天球上での位置) に応じて、オイラー角を決定する必要がある[*]。 季節によって、NEPを観測するための オイラー角を考えてみよう。NEPの赤経,赤緯は、天球上のX軸が春分点、Z軸が天の北極を向いている状態から、 X軸の周りに$23.^\circ4$回転したときに新たなZ軸が向く方向だから、 $(\alpha, \delta)=(270^\circ, 66.^\circ6)$で与えられることはわかるだろう ([*]頁の図参照)。 これが観測方向(衛星のZ軸)になることから、最初の二つのオイラー角は決まり、 $\phi = 270^\circ, \theta = 23.^\circ4$である。衛星のZ軸、Y軸の周りに連続して この二つの回転をおこなった時点で、衛星のY軸は春分点を向いている事に注意しよう。 Z軸の回りの第三オイラー角$\psi$の回転によって、Y軸は太陽と同じ向きに黄道上を移動する。 太陽パネル(衛星の+Y軸方向)が太陽の方向を向くという条件は、以下のようになる事を理解しよう [*]
春分のとき $\psi=0^\circ$
夏至のとき $\psi=90^\circ$
秋分のとき $\psi=180^\circ$
冬至のとき $\psi=270^\circ$

具体的な例を見てみよう。 「すざく」衛星は、今までこの領域を二回観測している。その時期とオイラー角は以下の通りである。

2005-09-02 (272.80, 24.00, 159.07), (シークエンス番号=100018010)

2006-02-10 (272.82, 23.98, 323.67), (シークエンス番号=5000026010)

秋分の時に太陽の 黄経が$180^\circ$、春分の時に$0^\circ$であることを考えれば、9月2日の太陽の黄経は ほぼ$159^\circ$、2月10日の太陽の黄経がほぼ$324^\circ$であることがわかるだろう。

SEPも一年中観測できるので、ポピュラーな領域である。SEPを観測するための オイラー角を考えてみよう。SEPの赤経,赤緯は、天球上のX軸が春分点、-Z軸が天の南極を向いている状態から、 X軸の周りに$23.^\circ4$回転したときに新たな-Z軸が向く方向だから、 $(\alpha, \delta)=(90^\circ, -66.^\circ6)$で与えられることはわかるだろう。 これが観測方向(衛星のZ軸)になることから、最初の二つのオイラー角は決まり、 $\phi = 90^\circ, \theta = 156.^\circ6$である。衛星のZ軸、Y軸の周りに連続して この二つの回転をおこなった時点で、衛星のY軸は秋分点を向いている事に注意しよう。 第三オイラー角$\psi$は、太陽パネル(衛星の+Y軸方向)が 太陽の方向を向くという条件から決まる。それが以下のようになる事を理解しよう。
春分のとき $\psi=180^\circ$
夏至のとき $\psi=90^\circ$
秋分のとき $\psi=0^\circ$
冬至のとき $\psi=270^\circ$



Ken EBISAWA 2009-01-26