宇宙には様々な有機物が存在している。宇宙の有機物の詳細な化学構造や起源、宇宙での変遷を辿ることは、宇宙の物質循環や生命起源物質の 探究において重要である。本研究では、宇宙の有機物の中でも、未同定赤外(UIR)バンドという、中間赤外線で観測されるフィーチャーを放つ 有機物に着目している。UIRバンドは一般的な星間物質や星周環境等幅広い天体環境でひろく観測されている赤外線放射フィーチャーであり、 CH結合やCC結合由来のフィーチャーが観測されていることから、宇宙の有機物由来のフィーチャーであることが知られている。しかしUIRバンド の担い手である有機物の具体的な化学構造や化学的性質は未だ解明されていない。そこで本研究では、室内実験と天体観測の両方の手法を用いて UIRバンドの担い手となる有機物の化学的性質を調べている。 室内実験では、filmy QCC (quenched carbonaceous composite; Sakata et al. 1983)とQNCC (quenched N-included carbonaceous composite; Endo et al. 2021)という二種類の模擬有機物ダストについて、詳細な化学構造分析を行った。QCCはメタンガスプラズマを急冷凝縮させて作った 炭化水素で、QNCCはQCC等の炭化水素と窒素ガスをプラズマ化させたものを急冷凝縮してできた窒化炭化水素である。特にQNCCは、新星周囲 の有機物ダスト由来のUIRバンドをよく再現していると考えられている。これらの模擬有機物ダストの詳細な化学構造を調べるため、高温真空TPD (昇温脱離法)という炭素材料の化学構造を調べるために新しく開発された装置と、XPS (X線光電子分光法)を用いて化学構造分析を行った。 天体観測では、WR140という、UIRバンドを示すダストシェルを持つ天体のダストシェル分光観測を行った。WR140は約8年おきの定期的に ダストシェルを生成する天体で、等間隔に並ぶ複数のダストシェルを持っている。中心星に近いほど新しく作られた物質が、中心星から離れる ほど古くに作られた物質が存在するため、中心星に近いダストシェルから外側のダストシェルにかけてJWST/MIRI LRSを用いてスリット分光観測 を行うことで、WR140周囲の炭素質ダストの化学的性質の変遷を調べた。 本発表では、上記2種類の研究内容について紹介する。