恒星は自己重力による収縮と核反応で発生した熱の釣り合いによって進化していき、特におよそ10 太陽質量以上の星は進化の最期に重力崩壊型超新星を起こすと考えられている。重力崩壊の直前、 恒星の中心部は密度や組成の異なる対流層が積み重なった、いわゆるタマネギ構造を形成すると考 えられている。近年の恒星進化末期の多次元シミュレーション研究では、恒星の中心付近での激し い酸素燃焼に起因する対流によりタマネギ構造が破壊される、"shell merger" と呼ばれる現象が 報告されている (e.g., Yadav et al 2020, Rizutti et al. 2024)。shell merger は恒星内の元 素合成を大きく変化させるため、爆発後に残る超新星残骸の組成だけでなく、銀河の化学進化に影 響を及ぼす可能性がある。 従来のCCD検出器による超新星残骸のX線観測によって、MgのアバンダンスがNeのそれに対して有意 に大きい Mg-rich 超新星残骸が数例報告されている(N49B, Park et al. 2003; G284.3-1.8, Williams et al. 2015)。我々は新たなMg-rich超新星残骸 G359.0-0.9 を発見したほか、これまで 明らかになっていなかったその形成過程が、shell merger によって説明できることを見出した(KM et al. 2024; Sato, KM, et al. 2024)。これらは shell merger を示唆する初の観測例である。 また我々は恒星進化モデルの解析も行い、本来爆発困難である20太陽質量以上の特に重い恒星も shell merger を経れば爆発可能になるなど、爆発機構に影響を及ぼす可能性を示した。 Ritter et al. 2018 は、shell merger によって P, Cl, K といった奇数番元素が大幅に過剰生成 される可能性を示唆している。これらは生命にとって必須の元素である。しかし既存の化学進化理 論では現在の宇宙にあるこれら元素の豊富な存在量を説明できないことが知られており (Kobayashi et al. 2020)、shell merger はこの問題を解決する一助を担う可能性が期待される。 我々は XRISM/Resolve による超新星残骸 Cassiopeia A の観測を行った。Cassiopeia A の爆発噴 出物においては Ne が欠乏していることが従来の他波長観測から知られており (e.g., Vink et al. 1996; Chevalier & Kirshner 1979)、我々はその要因が shell merger である可能性を示唆し ていた (Sato, KM, 2024)。Resolve による観測の結果、太陽組成を上回る量の豊富な K を検出し (K/Ar~1.3solar)、これが shell merger によるものであると結論した (XRISM collabolation in prep.)。 今回はこれらの結果についてまとめて紹介するほか、今後の展望についても触れる。