太陽フレアは太陽系における最大の爆発現象である。1時間程度の時間で10^32 ergものエネルギー を解放し、電波からX線まであらゆる波長で増光する。この太陽フレアは、コロナと呼ばれる高温 な太陽大気中に蓄えられた磁場のエネルギーを短い時間で磁気再結合(磁気リコネクション)によっ て解放していると考えられている。太陽フレアが磁気リコネクションによって引き起こされている 場合、高温(数千万度)の高速流(〜毎秒1000 km)が発生する事が理論的に予言されている。し かしながら、これまで観測的にこの高温高速流がとらえられた事例はほとんどない。観測できない 理由の一つにプラズマの熱的非平衡性が考えられる。太陽コロナ中ではプラズマ同士が適度に衝突 するため、地球磁気圏尾部のような無衝突プラズマ環境とは違い、プラズマは熱的に平衡状態に達 していると考えられてきた。これまでの太陽コロナ観測(特に紫外線・X線分光観測)は時間分解 能がそれほど高くなかったため熱的平衡プラズマを仮定した考察で十分であった。「ひので」衛星 の観測が始まり、これまでできなかった短い時間スケールで現象を議論できるようになった。さら に、これまで以上に高い波長分解能で、かつ多波長同時観測ができるようになった。その結果、粒 子種間での温度非平衡や電離非平衡など、熱的非平衡プラズマの議論が可能となった。近年、太陽 物理学分野だけでなく、X線天文学をはじめとした様々な天文学の分野で熱的非平衡プラズマに関 心が集まっており、今後の発展が期待される。