X線分光撮像衛星 XRISM は、日本主導で開発した 2023 年打ち上げ予定のX線天文衛星であり、 X線 CCD カメラ Soft X-ray Imager (SXI) を搭載する。X線 CCD は入射光子を光電効果によっ て電荷に変換し、読み出し口まで転送することで信号を読み出す。X線観測における標準的な検出 器であり、撮像と分光の同時観測が可能である。一方、軌道上では宇宙線由来の放射線損傷が不可 避であり、転送時の電荷損失率を表す電荷転送非効率 (CTI) の上昇に応じて分光性能が劣化する。 開発した XRISM 衛星用 CCD でも電荷注入機能といった対策を施しているが、放射線損傷による CTI 上昇の更なる緩和と素子特性に応じた CTI 較正の手法確立が重要な課題であった。そこで我々 は、XRISM 衛星用 CCD を新開発して、放射線耐性を調査した。この素子はP型埋め込みチャンネル の不純物濃度を部分的に増加させることでポテンシャルに局所的な溝を形成し、転送時の電荷密度 を向上させるノッチ構造を採用している。放射線医学総合研究所の HIMAC で 100 MeV の陽子を照 射することで、軌道上での放射線損傷を模擬した。またノッチ構造未実装の素子にも同様に照射し、 各素子の CTI の経年変化を推測した。その結果、ノッチ構造によって CTI の上昇は数倍程度緩和 されることが分かり、XRISM 衛星の設計寿命である 3 年間経過後も余裕を持って分光性能の設計 要求を満たすことを示した。また較正手法確立のため、衛星搭載品と同型素子で高統計のX線デー タを取得して、CTI を調査した。その結果、電荷転送方法の異なる動作モードでの電荷損失量の比 較から、CTI が転送時間だけでなく、撮像領域や蓄積領域といった転送領域にも依存することが分 かった。これらの依存性を考慮した CTI モデルを新たに構築することにより、複数の動作モード の統一的な再現に成功し、較正が可能であることを示した。