銀河進化過程の解明には、遠方の暗い天体を赤外線で高分散分光観測ができる大口径冷却宇宙望 遠鏡が必要である。 その実現のため、宇宙望遠鏡に搭載する検出器にはいくつかの性能向上が求 められる。一つは、検出器の低雑音化である。これまでの測定では、望遠鏡のバックグラウンド 光によるショット雑音が全体の雑音を決めていた。しかし、さらなる高感度化のための望遠鏡自 身の冷却により、ショット雑音が減少し、検出器雑音が全体の雑音を支配する状況になった。 こ のため、高感度測定には、検出器の低雑音化が必須である。また検出器に対する要求として、冷 凍機の冷却能力の制限から低発熱化も同時に達成しなければならない。 これに向けて本研究では、赤外線検出器の一部である、極低温読み出し集積回路部分の低雑音・ 低発熱化を行った。性能目標としてSPICA(SPace Infrared telescope for Cosmology and Astrophysics; 2020年に中止が決定)で計画されていた要求(40 e, 2mW at 1 Hz)を設定した。読 み出し集積回路はアメリカの赤外線天文衛星WISE(Wide-field Infrared Survey Explorer)で用い られたものを基に改良しており、読み出し方式としてソースフォロア回路を採用している。最適 な性能を持つ回路を探索するため、4通りの読み出し回路を実装した集積回路を試作し、極低温で の性能を評価、比較した。クオドラント1 (Q1)は従来型、 Q2は積分キャパシタを半分に変更、Q 3は定電流供給をスイッチングすることで 低発熱化と低雑音化を目指し、Q4ではMOSFETをNからP に変更している。測定項目として、極低温(4.5 K)での動作確認、暗電流、ソースフォロアゲイン、 雑音、及び消費電力について調べた。 測定の結果、以下のことが分かった。1)4.5 Kで正常動作する条件が明らかになった。2)観測時間 600 sでの暗電流が0.02 e/s/pixel以下と要求を満たす性能であった。3)フレームレート1 Hzで 1.7 mWと設計通りの低発熱化を実現した。4) 積分容量を従来の半分にしたことで電子数換算ノイ ズの半減に成功した。また、 Q4で51 eと最も良い雑音性能を示した。その一方で、雑音は要求値 (40 e)を上回る結果となった。これについて、どのような雑音が支配的かフーリエ解析を行なっ た結果、Q4では1/f雑音よりホワイトノイズが卓越していた。雑音低減策として測定系の雑音低 減や評価方法について 検討する。 また、Q3では84 eと想定以上の雑音性能であった。この回路では、ピクセル読み出しの際、極低 温と常温で異なる動作をしていることが確認された。これが雑音に影響しているかについても議 論を行った。