活動銀河核(AGN)とは、中心の超巨大ブラックホール(SMBH)への物質降着によって明るく光る活動的な銀河の中心領域である。AGNの巨大なエネルギー放射は、母銀河全体の進化に影響を与えるとされているため、重要である。可視光輝線の特徴が異なる Type-1 AGN と Type-2 AGN は実際には同一の構造を有し、その差は SMBH を取り囲む「分子トーラス」という物理的に厚いドーナツ状の構造を見込む角度によって生じるとされ、分子トーラスは AGN の性質を理解する上で重要である。理論的研究により、トーラスは複数の分子雲 (Clumps) から構成され、それらが Outflow/Inflow することで物理的に厚い構造を動的に維持すると予測されている。よって、その内部構造を観測的に調べることが不可欠である。さらに近年、トーラスの進化シナリオにより、AGN 進化に伴って極方向 Outflow が拡張し、動的に維持されるトーラス内部構造にも影響を与えると提唱されている。よって、異なる進化段階にある AGN のトーラス内部構造の違いを観測的に調べることも重要である。しかし、分子トーラスは直径数 pc 程度の構造であり、その内部構造を空間分解することは困難である。  そこで、本研究では、すばる望遠鏡の高分散分光(速度分解能 ΔV~30-60 km s^-1)によって観測した一酸化炭素 (CO) 分子ガスの振動回転遷移 (v=0-1, ΔJ=±1, λ~4.67 μm) 吸収線を速度成分分離することで各速度成分に対応する Clumps の性質、空間分布を、4つの Type-2 AGN (Edge-on) について調べた。  速度成分分離の結果、速度分散の異なる2-3個の速度成分が検出された。まず、各速度成分の速度分散から Clumps の SMBH からの距離を見積もった。その結果、分子トーラスが内側で Outflow、外側で Inflow する Clumps によって構成される、動的な構造で維持されていることが観測的に示された。また、分子の励起状態から、Clumps の温度が内側で >~500 K 程度、外側で <~150 K 程度であり、AGN 中心の放射で加熱される系であることが示された。  次に、AGN 進化段階によるトーラス最内縁構造の違いを調べた。トーラス進化段階のトレーサーとされる、極方向 Outflow から生じる OH 吸収線の視線速度に基づいて、進化段階ごとに CO 振動回転遷移吸収線の最内縁成分(a)の視線速度を調べると、進化段階が早期の AGN では成分 (a) がこちらに Outflow していない一方で、後期の AGN では Outflow していることが分かった。これらの結果は、極方向 Outflow の拡張によって、CO 振動回転遷移吸収線でトレースされる分子トーラス内部 Outflow がより Edge-on 方向を向くようになったためだと解釈でき、トーラスの進化シナリオに整合する。  以上のように、本研究は、分子トーラスが静的ではなく、理論的研究が示唆するような動的構造であることを観測的に示した。さらに、トーラス内部構造の違いが極方向 Outflow の拡張に伴う分子トーラスの進化によるものだと解釈できることを観測的に示唆した。 参考: S. Onishi et al. 2021, ApJ, 921, 141 (https://doi.org/10.3847/1538-4357/ac1c6d) あいさすGATE記事 (https://www.isas.jaxa.jp/home/research-portal/posts/gateway/20211119/)