近年、いくつかの若い超新星残骸で、数年スケールの局所的なX線の時間変動が発見されている (e.g., Uchiyama et al. 2007; Patnaude & Fesen 2014)。ティコの超新星残骸(以下、Tycho) は、若く近傍に位置し、高角度分解能観測が可能なChandra衛星によって複数回観測されているた め、時間変動解析に適している。この天体の南西部では、シンクロトロン放射由来の~10 arcsec幅 の特異な縞状構造が見つかっているが、その成因はよくわかっていない(Eriksen et al. 2011)。 今回、縞状構造全体について時間変動領域を探査した結果、複数の縞で表面輝度や光子指数が数年 スケールで変動しており、表面輝度と光子指数の間には強い相関があった(Okuno, MM et al. 2020; MM et al. 2020)。変動のタイムスケールから、この領域で数100 μGまで磁場増幅さ れていると考えられる。また、縞状構造近傍の衝撃波面からのシンクロトロン放射を複数領域に分 けて解析すると、縞状構造でみられたような表面輝度と光子指数の相関はなく、縞状構造の方が放 射が硬いことがわかった。このことから、縞状構造で衝撃波面より効率の良い粒子加速が起きてい ることを示唆した。次に、Tycho全体に拡大して時間変動解析を行った結果、北東部のシェル付近 で2000年から2015年の間に熱的放射が増光している領域を発見した(MM et al. in prep.)。この 領域のスペクトルは約1.5 keV以下の低エネルギー帯域において顕著なフラックスの増加がみられ、 解析の結果、低エネルギー帯域の成分は電子温度が有意に上昇していることがわかった。アバンダ ンスが太陽組成に近いことやX線とHα画像に良い相関があることから、この領域の熱的放射は衝撃 波加熱された星間物質由来と考えられる。若い超新星残骸での熱的放射の局所的な変動は Cassiopeia Aのイジェクタでも見つかっているが(e.g., Patnaude & Fesen 2007)、星間物質 由来の変動を発見したのは今回が初である。本講演では、これら2つの時間変動について、詳細な 解析結果を発表し、議論を行う。