中性子星は、重力崩壊型超新星爆発の際に形成されるコンパクト天体の一種である。平均密度は原子核物質と同等であり、その超高密度によって、中性子星の内部及び周辺では様々な極限環境が実現していると考えられる。特に、宇宙最強といわれる 1012-1015 Gの超強磁場は大きな特徴である。中性子星からは電波からガンマ線に至る広帯域の電磁波が観測されていて、多くの場合、自転に伴う周期的な光度変動が見られる。これらの磁場や電磁波スペクトルによって中性子星は様々な種族に分類されるが、ほとんどの種族では中性子星周辺の磁気圏からの非熱的な放射が支配的である。一方、一部の種族では軟X線帯域で熱的放射が観測され、そのスペクトルや放射半径から中性子星表面の放射であると考えられている。これは中性子星本体を直接観測する数少ない方法として重要である。  X線単独中性子星 (X-ray Isolated Neutron Star; XINS) は非熱的放射を伴わず、軟X線帯域の熱的放射のみが観測される中性子星の種族である。これまでに7天体が発見されており、そのスペクトルは温度 ~100万Kの単温度黒体放射と幅の広い吸収線で近似できるとされていた。本研究では、XINS全7天体についてXMM-Newton 衛星による10年以上の観測データを積算し、7天体全てについて従来の単温度成分の2倍程度の温度を持つ高温成分を発見した。更に、XINSの中で最も明るいRX J1856.5-3754 について、大面積・高時間分解能のX線望遠鏡であるNICERによる観測を行った。その結果、従来知られていなかった低エネルギー側の吸収線を発見した。加えて、自転周期が従来知られていた約7秒ではなく、その2倍である約14秒である可能性を示した。  低温+高温の2温度黒体放射はXINSだけではなく、他の中性子星種族でも観測されている。これらに関して、低温、高温両成分の温度と放射半径をそれぞれ種族間で比較し、XINSは年齢が一桁若く、磁場が一桁小さい電波パルサーと類似している一方、更に年齢が若く、磁場が一桁大きいマグネターとは放射半径は相同で、温度が一桁違うことを明らかにした。高温成分の起源については、エネルギー収支などの議論から、磁場で加速された電子による磁極の加熱ではなく、中性子星表層の強磁場による熱伝導率の非等方性で生じた温度勾配に起因する可能性が高いことを示した。更に、XINSの吸収線について、磁場との間に相関を発見した。これは、吸収線が磁場に由来する現象であることを裏付ける証拠である。吸収の物理過程として陽子によるサイクロトロン共鳴散乱を仮定し、中性子星の自転軸と磁軸のずれを観測的に推定する方法を発案し、その角度を初めて系統的に制限した。