アクシオンの世界初観測を目指し、とくに太陽から飛来する太陽アクシオンの探査に特化した最 新のX線検出器「超伝導転移端型X線マイクロカロリメータ」の開発を行う。宇宙物質の 85% を占 める正体不明の「暗黒物質」を探すため、世界中が探査のための研究開発に取り組んでおり、 なかでも最有力候補「アクシオン」に注目が集まっている。アクシオンは素粒子標準模型の枠組 みを超える理論により予言される未知の素粒子である。アクシオンの発見は「素粒子物理学」 において新しい素粒子模型の構築に対する強い動機付けとなり、対極スケールにある「宇宙物理 学」においては、宇宙創成メカニズムの理解を大きく進展させる重要な手がかりとなる。そのた め、アクシオンの探査は現代物理学の極めて重要な課題と言える。 「超伝導遷移端型(Transition Edge Sensor)X 線マイクロカロリメータ」(以下、TES カロリメー タ) は次世代 X線天文衛星Athena にも搭載される最先端の熱検出器であ り、X 線に高い感度をも ち、最高のエネルギー分解能を誇る。しかし、従来の TES カロリメータでは太陽アクシオンを捕 らえることはできず、改良を加え特化した検出器を製作する必要がある。太陽内部で生成されたア クシオンは地上で 57Fe と反応し光子に変換され、14.4 keV の X 線輝線を放射することが提唱さ れている (Moriyama 1995)。そこで我々はX線を止める吸収体に 57Fe を用い、輝線測定に強みを もつTES カロリメータにより変換光子を検出することを考えた。しかし、強磁性体であ る 57Fe のもつ磁場が、超伝導薄膜である TES の超伝導特性 や分光性能を劣化 させる恐れがある。そこ で、従来は TES の直上に設置していた吸収体を、TES から離して横置きにし、熱的にリンクさせ る構造を考案した (Maehisa master's thesis 2018)。磁気と熱のシミュレーションを行い構造の 最適化をしたものの、これまで磁性体のまわりで TES カロリメータを動作させた前例はないため、 実際に磁場の影響を低減させつつ、エネルギーを効率良く伝えられる新構造の素子製作を行い、そ の動作実証を行う必要がある。本修士論文では、新構造の素子製作にあたり、吸収体 Fe の熱伝導 度を高めるための電析プロセスの条件出しと、実際に試験素子の製作プロセスおよび動作実証まで をまとめた。