活動銀河核(Active Galactic Nuclei, AGN) 周囲に存在する幾何学的に厚い分子トーラスは, AGN からの放射を遮蔽する役割を持つ重要な構造であるが, トーラスの厚みの形成過程や内部構造は未 だに明らかでない. 近年, ALMA 望遠鏡を用いたトーラスサイズと同等の分解能でCO輝線の観測が 行われ, トーラス構造がAGN領域に確かに存在する事を示した. また, CO輝線から推定される速度 成分は, 理論研究から提案される降着円盤からの輻射によるトーラス内の乱流形成機構と整合的で あった (Izumi et al. 2018) . しかし、依然としてトーラス内部まで空間分解することは難しく, トーラス内部の微細なガスの運 動状態, 物理状態までは未解明である. そこで, 我々のグループではトーラス内壁のダスト昇華層 を背景光としたCO 振動回転遷移吸収線(波長 ~ 4.67 um, v=0-1, ΔJ=+/-1) の観測を行う事で, トーラス内部の微細なガスの運動状態, 物理状態に迫っている. IRAS 08572+3915 のCO 吸収線観 測では, 複数の速度成分(-160, 0, +100 km/s) を持つガスが観測され, さらに励起状態がボルツ マン分布を示すような高温 (数百K) 成分がトーラス内に存在する事を示した (Shirahata et al. 2013). そして, 本研究では電波観測と整合的な理論モデルのトーラス構造に基づいたCO Non-LTE輻射輸送計算をすることで, 観測された吸収線スペクトルを理論計算で再現できるか検証 した. その結果, 観測されたCO 吸収線がトーラス由来であることを示し, Shirahata et al. (2013)と同 様に速度成分を持つ吸収線が観測見込み角80 度から50 度で観測される事を示した. そして, 見込 み角77度で観測された赤方偏移, 青方偏移した吸収線の成分は, どちらもAGN中心から2pc 以内の 高密度領域に存在している事を示した. これらの事から, 本研究は観測的な結果と理論モデルの整 合性を確認し, さらに観測結果だけでは理解できない吸収線の起源について一つの解釈を与えた.