本研究は可視光静穏時における矮新星(DN)のX線観測データを系統的に解析することによって境界層の物理状態を解明することを目的とする。 矮新星は磁場の弱い白色矮星(White Dwarf:WD)を主星に持つ激変星の一種である。WDの周りには伴星から輸送されたガスが降着円盤を形成し、円盤内で熱不安定が起こると急激にガスが降着、可視光領域で増光する。一方、円盤内縁とWD表面間の境界層では、ケプラー回転するガスと自転するWDとの速度差による強い摩擦で高温プラズマが生まれ、X線を放射している。 我々は天文衛星 XMM-Newton(XMM)で観測した19天体、全25データの静穏時の矮新星についてX線スペクトル解析を行った。静穏時のX線スペクトルは光学的に薄い多温度プラズマモデルで再現できる。我々はこのモデルに円盤やWD表面によるプラズマの反射成分を加えてスペクトルを評価し、WDへの質量降着率とプラズマ最高温度を算出した。その結果、プラズマの最高温度と白色矮星質量、境界層を通る質量降着率と軌道周期のそれぞれで明確な相関関係があることを明らかにした。 また、静穏時での境界層の時間変化を調べるために、XMMの他に、すざく衛星、NICER衛星で静穏時を観測している SU UMa型矮新星の VW Hyiと U Gem型矮新星の SS Cygについて、アウトバースト後の経過日数という指標に対して質量降着率を評価した。多くの矮新星アウトバーストの数値シミュレーションでは(e.g., Lasota 2001)、静穏時のWDへの質量降着率は時間経過とともに増加すると予測されているが、我々は静穏時の質量降着率が経過日数に対して減少する関係を見出した。