超新星残骸(SNR)は、星が進化の最後に起こす爆発(超新星)の後に形成される爆発噴出物、星間物 質、星周物質からなる高温の残骸である。爆発によって放出された噴出物は周辺の物質と相互作 用し、衝撃波を形成する。その際、衝撃波によって 10^6 - 10^7 K 程 度まで加熱された爆発噴出 物は、熱的 X 線を放出する。それらを X線観測する事で、どのような元素が星の内部や爆 発で合成されたかを調査できる。本研究で注目する年齢数百年程度の若いSNR は、放射冷却 をほぼ無視できるため、爆発の初期エネルギーのほぼ全てを保存したまま、現在も膨張進 化を続けている。そのため、これらの SNR の膨張過程の調査が、爆発の初期条件(爆発の仕方や 周辺環境)やその後の進化の理解に直結する。 本研究では、Tycho SNR, Kepler SNR の 2 つの若いSNR で、世界で初めてX線輝線のドップラー 偏移から膨張速度を求める事に成功し、その三次元的膨張構に迫ることで、同年齢のSNRが異なる 膨張進化を経験していることを明らかにした。 これらは、それぞれのSNRの爆発の初期条件(爆発 の仕方や周辺環境)に違いがあった事を示唆している。