活動銀河核のX線スペクトルの多くには、5-8keVあたりに「広がった鉄K輝線のようなスペクトル構 造」が観測される。この広がった鉄輝線構造の起源に関して、散乱物質がブラックホールの近くに あるか (Rgスケール;Rgは重力半径) 遠くにあるか (100Rgスケール) で、これまで大きく二つのシ ナリオが考えられてきたが、時間平均スペクトルだけではどちらが尤もらしいか決着をつけること ができなかった。そこで我々は、スペクトルの時間変動に注目して両者のモデルの縮退を解き、ど ちらのシナリオが妥当かを調べた。活動銀河核の鉄Kバンドは、周囲のバンドよりも変動率が低く、 数十秒から数百秒程度遅れて観測されることが知られている。我々は、散乱物質がブラックホール の近くにあるという解釈では、この時間変動性を同時に説明することが難しいことを示した。一方、 散乱物質が比較的遠くにあるという解釈に立つと、円盤風などのクラウドを考えることで観測事実 が全て説明することが可能であることが明らかになった。本講演では、活動銀河核の鉄Kバンドに おけるX線スペクトルの変動性を鍵にして得られた、活動銀河核の中心領域における物理描像につ いて説明する。