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第60号 1998年10月7日発行

目次


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宇宙運用システムの新技術
(最終回 宇宙運用システムのビッグバン)

 この連載では、宇宙運用システムの分野で最近注目を集めている技術として、パケットテレメトリ関連の技術とシステム管理技術について解説してきました。

 この連載で解説した技術には、どのような衛星にも、どのような施設にも、そのまま適用することができるという大きな特徴があります。例えば、「ある衛星が発生した APID が n のパケットを甲センターのA装置から乙センターのB装置へリアルタイムに伝送する」という仕組みは、特定の衛星にも特定の施設にも依存せずに汎用の仕組みとして作ることができます。

 ところで、パケット伝送やシステム管理の仕組みにもいろいろな実現の仕方が存在します。例えば、計算機間でデータを交信する仕組みにもいろいろなものがあり、ひとむかし前は計算機メーカ毎に異なる仕組みを採用していました。そのために、異なるメーカの計算機間で交信するのは容易ではありませんでした。しかし、今はインターネットを使って世界中のどんな計算機とも自由に交信することができます。これは、計算機間で交信するための標準規格が確立されたから可能になったのです。

 宇宙運用システムの世界でも、これからは標準規格が重要になります。例えば、パケットや フレームを伝送するための標準規格があれば、「衛星からテレメトリを受信し、それをパケットやフレーム単位で指定されたセンターの指定された装置に指定されたタイミングで伝送する」というような機能を汎用の製品として作り、それを世界中のあらゆるシステムに組み込むことが可能になります。一つの製品が、アメリカでもヨーロッパでも日本でも使えるようになり、また、科学衛星にも地球観測衛星にも宇宙ステーションにも使えるようになります。すなわち、宇宙運用のための標準規格があれば、宇宙運用システムに関するオープンな市場が出現することになります。こうなれば、宇宙運用システムの基本的な部分(地上局の設備も含めて)は、メーカに特注品を発注するのではなく、既製品を組み合わせるだけで構築できるようになります。また、オープンな市場ができれば、メーカ間の競争が盛んになりますから、質の高い製品を低価格で調達できるようになります。このような状況を私は宇宙運用システムのビッグバンと呼んでいます。

 この連載で以前紹介した SDTP も、 このような発想で開発したものです。ところが、SDTP は宇宙研内部の規格でしかなく、国際標準規格ではありません。しかし、このような国際標準規格の必要性は国際的にも強く認識されており、 CCSDS (宇宙データシステム諮問委員会)という委員会でパケット/フレームの伝送や運用システムの管理のための標準規格を現在作成しています。来年中にはこれらの標準規格が出そろう予定です。宇宙運用システムのビッグバンが実現する日も、もうそこまできているのです。

 これで「宇宙運用システムの新技術」と題した連載を終わります。長い間ご愛読ありがとうございました。

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(山田 隆弘)


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のぞみ(PLANET-B)の運用ネットワーク

 今年の7月に打ち上げられたのぞみ(PLANET-B)の運用では、新たに開発されたネットワークが使用されています。このネットワークでは、運用のための装置はすべて LAN(ローカルエリアネットワーク)に接続されます。また、相模原(SSOC)、臼田(UDSC)鹿児島(KSC)の間の接続には、従来から設置されている専用回線の帯域の一部を使用しています。

 計算機間の接続には、インターネットの標準 プロトコルである TCP/IP を使用しています。 オンラインの運用データの転送には、TCP/IP の上位の プロトコルとして SDTP(宇宙データ転送プロトコル)という宇宙研で開発したプロトコルを標準的に使用しています。

 のぞみの運用ネットワークの基本的な構成を右に示します。右図には、KSC は示されていませんが、KSC にも UDSC とほぼ同様な装置が配置されています。右図に示された装置は、原理的には、上に述べた標準プロトコルを用いてどの装置とも自由に交信できるのですが、専用回線の帯域を有効利用するために、専用回線の両端ではデータ分配装置を介して接続するのを原則としています(ただし、例外もあります)。

 このネットワークでは、従来のシステムでは困難であった運用がいろいろと可能になっています。SSOC には、UDSC に接続された衛星管制装置と KSC に接続された衛星管制装置とがそれぞれ設置されていますが、 UDSC 用の衛星管制装置を KSC に接続して運用することも可能です。また、将来ゲートウェイ装置を設置すれば、SSOC から外国局を用いて運用することもできます。また、KSC の衛星管制装置を UDSC に接続し、KSC で発行したコマンドを UDSC のアンテナから送信することも可能です(この接続形態は、コンティンジェンシー時に必要となる場合があります)。

 以上のように、従来のネットワークと比べてネットワークの柔軟さが格段と高まり、コンティンジェンシー対策も行いやすくなったのですが、バックアップ用の装置が全体的に不足しているため、ネットワークの柔軟さの効果がまだ十分には発揮できていません。このへんが今後の課題であると考えられます。

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(山田 隆弘)


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大型計算機に関するお知らせ

1.VPP500 保守作業後の立ち上げ遅れについて

   9月21日(月)にVPP500 の定期保守作業が行なわれました。保守作業の一部として、磁気ディスクのオフトラック診断テストプログラムを流した所、7台のディスクの内2台にオフトラックが発見されました。

 急遽データバックアップ・部品交換・テストプログラムチェック・データリストア等の作業終了後19:30にシステム立ち上げ開始、19:48にシステム運用を開始致しました。利用者の皆様には多大なご迷惑をお掛けした事を深くお詫び申し上げます。


2.大型計算機の10・11月の保守作業の予定


※1 M:システムメンテナンス
※2 各計算機共事前にイニシエータクローズ処理は行いませんので、作業開始の8時には終わる様計画的にジョブの実行をして下さい。尚、VX/2 はジョブフリーズ、GS8400/20 はジョブのセーブホルト処理により保守作業を行います。

(関口 豊)


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