PLAINセンターニュース第92号
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タイトル「はるか/VSOP観測データの公開について」

澤田 -佐藤 聡子

1997年 2月12日の打ち上げ成功以来、衛星「はるか」は世界初の地球を周回するスペース VLBI 用電波望遠鏡として活動しています。複数の電波望遠鏡と同時に同天体を観測する VLBI では、通常望遠鏡ごとに観測されたデータを磁気テープに記録し、それらを集めて相関器にて相関処理を行ない、ビジビリティと呼ばれる相関生データを得ます。「はるか」を用いたスペース VLBI 計画、VSOP は L帯 (1.6 GHz)および C 帯 (5 GHz) の観測バンドでそれぞれおよそ 0.75 および 0.25 ミリ秒角という高角分解能を達成しています。

衛星「はるか」は他の VLBI 観測局と違ってテープ記録装置を搭載していません。その代わりに観測データを衛星内でデジタルに変換した後、Ku 帯 (14〜15 GHz) のバンドを使って 128 Mbps の速度で地上に送ります。地上では宇宙研の臼田 10m アンテナの他、現在 NASA/DSN のマドリッド局(スペイン)、ティドビンビラ局(オーストラリア)、NRAO(アメリカ国立電波天文台)のグリーンバンク局(アメリカ)が「はるか」からの観測データを待ち受けています。これらの Ku トラッキング局で受信された観測データはそこで磁気テープに記録され、地上の他の観測局からの磁気テープと同様、相関器にて処理が行なわれます。VSOP に用いられる相関器は世界に3つあり、日本の三鷹相関局の他、アメリカのソコロ局、カナダのペンティクトン局が相関処理に参加しています。これらの相関局から観測者に届けられるビジビリティデータのサイズは、観測局数、観測時間、分光点数にも寄りますが、典型的に 2 〜 5 Gバイトになります。

私たちは PLAIN センターが提供するデータ公開システム DARTS に VSOP 観測データを参加させるべく、これらの3つの相関局からビジビリティデータをかき集めています。これまでの宇宙研科学衛星のデータと同様、利用者にとって必要なデータを VSOP 観測データベースの中から DARTS の検索システムを用いて取得できるようにします。提供するデータは、較正データとFITS 形式のビジビリティデータです。これらの観測データは、観測後の相関処理が行なわれた後 18 カ月間は観測提案者に権利がありますが、それ以降は基本的に公開されます。さらにミッション側が行なう試験観測およびサーベイ観測のデータも同様に公開されます。将来的には、各観測毎にイメージ FITS データを公開することも視野に入れています。 VSOP 観測データの解析作業は、主としてデータの較正とイメージングに大別されます。データ解析には NRAO が開発したソフトウェア AIPS (http://www.cv.nrao.edu/aips/) やカリフォルニア工科大学の Difmap ( ftp://www.astro.caltech.edu/pub/difmap/difmap.html) などが一般に使われます。

AIPS は較正からイメージングまで解析全般の作業をこれひとつで行なうことが可能です。このほど NRAO の AIPS グループと共同でスペース VLBI 用のツールを AIPS に追加し、更に強力になりました。一方 Difmap はイメージング作業のみのソフトウェアですが、簡便で高速な処理が出来るように開発されています。どちらも、これまで電波干渉計や VLBI のデータ解析に大きな実績を持っています。これらは Solaris や Linux など多くの UNIX 系 OS 上で稼働し、Anonymous ftp や On-line order などで入手することが出来ます。これらのデータ解析用ソフトウェアの入手法および解析手順は VSOP グループの Web サイト上で既に御覧になれます。http://www.vsop.isas.ac.jp/obs/Reduction.html

最後に VSOP 観測データアーカイブならではの舞台裏をお話しましょう。まず、VSOP の観測データでは、ごくまれですがひとつの観測に対しビジビリティが複数存在することがあります。それは VLBI では各観測局で一度データをテープ に記録するので、相関処理のやり直しがきくためです。分光点 数や積分時間などのパラメータを変えて相関処理をすれば、 観測は同じでもビジビリティデータは異なるものになります。 VSOP ではこのような場合存在する全てのビジビリティデータ を公開する方針ですので、ひとつの観測に複数の観測データが 用意されているのを見つけた方は驚かれるかもしれません。さ らに、このような相関処理を行なう相関局は前述の通り3局 あり、それぞれ局によってデータヘッダーの記述の仕方が違う 箇所もあります。このことにより VSOP 観測データの検索シス テム構築作業は一筋縄ではいかなくなっているのですが、これ らをうまく統一してどの相関局からの観測データも検索可能に していきたいと考えています。加えて、VLBI では較正データ は参加した観測局の分だけ必要なので、VSOP では少なくとも 数局分、多い時は20局以上の較正データが必要になります。 これらの較正データも利用者に分かりやすく観測毎にまとめ ようと考えています。

現在、VSOP 観測データアーカイブは構築をはじめたばかり ですが、出来るだけ早く御利用頂けるようにしたいと考えています。




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